AIにおける「学習」と「推論」の違いと計算手法
野村:AI半導体の領域ではNVIDIAが莫大な利益を上げていますが、インテルのCPUとNVIDIAのGPUでは、役割がどう違うのでしょうか。
岡:それを理解するためには、AIのプロセスを「学習」と「推論」の2段階に分けて考える必要があります。まず「学習」とは、モデルを賢くするプロセスです。ChatGPTの背後にあるGPT-3のような大規模なモデルに、膨大なデータを読み込ませて予測精度を上げる段階を指します。一方の「推論」とは、ユーザーが質問したことに対して回答を生成するなど、AIが実際に要求に応えるプロセスです。
野村:これまでのAIブームは「学習」がメインだった、ということですか。
岡:その通りです。ChatGPTが登場した当初は、いかにモデルを賢くして世に出すかという「学習」のニーズが圧倒的でした。そのため、AIデータセンターは学習のために構築され、そこではGPUが主役を務めていました。
野村:なぜ学習にはGPUが適しているのでしょうか。
岡:これはCPUとGPUの計算手法の違いに起因しています。CPUはパソコンやスマートフォンの「頭脳」として知られていますが、特徴は「逐次処理」です。例えるなら、100マス計算を左から順番に1マスずつ解いていく方式です。対してGPUは、もともとゲームのグラフィックス用途などで発展してきました。複雑な計算は苦手ですが、単純な計算を一度に大量に行う「並列処理」を得意としています。
野村:処理の進め方が根本的に違うのですね。
岡:わかりやすく例えるなら、「1人の数学者(CPU)」と「1万人の小学生(GPU)」の違いです。100マス計算を10億題解くような膨大な作業が必要な場合、高度な数学知識は不要です。単純作業を馬力でこなせる1万人の小学生(GPU)の方が、圧倒的に早く処理できます。学習プロセスは膨大な掛け算と足し算の繰り返しであるため、これまではGPUに注文が殺到していたのです。
「AIエージェント」の登場が変える半導体の主導権
野村:しかし、現在はそのフェーズが変わりつつあると。
岡:はい。フェーズが「推論」へと移行し、さらにその内容が進化してきたことで、再びCPUが必要とされる場面が増えています。初期のChatGPTのような一問一答形式であれば、主な処理は計算であるため、まだGPUでも対応可能でした。しかし、現在キーワードとなっている「AIエージェント」の段階になると状況が変わります。
野村:AIエージェントになると、具体的に何がそれほど違うのでしょうか。
岡:AIエージェントはタスクが複雑化するため、単に計算するだけでなく、「どのようにタスクをこなすか計画を立てる」「段取りを決める」「リソースを適切に分配する」といった、いわゆる「オーケストレーション」という役割が必要になります。
野村:全体の司令塔のような役割ですね。
岡:そうです。例えばカスタマーサポートのAIエージェントを想定してみましょう。ユーザーから「注文した商品が届かない」と問い合わせがあった際、AIは単に言葉を返すだけでなく、社内データベースで注文状況を確認し、配送業者のAPIを叩いて現在地を把握し、さらに返品ポリシーを確認するといった、複数のツールを呼び出して実行しなければなりません。こうした「お膳立て」や「段取り」の指示は、逐次処理を得意とするCPUの独壇場なのです。
野村:なるほど。AIが「考える」だけでなく「行動」するようになると、数学者(CPU)の知恵が必要になるわけですね。
岡:推論の中でも「一問一答型」から「AIエージェント型」への進化が、大きな転換点となりました。司令塔が必要とされる時代になったからこそ、CPUの王者であるインテルが再び注目されているのです。














