300円のおもちゃのはずなのに、市場規模はこの4年で3倍にふくらみ、専門店は全国900店舗を超えました。なぜ、いまカプセルトイがこれほど盛り上がっているのでしょうか。その背景には、60年前に見抜かれた人間の心の仕組みと、「電源がいらない」という、ビジネスとしての強さがあります。カプセルトイが立派な「産業」になっていく仕組みについて、リサーチャーのcomugiが解説します。

(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年6月29日配信『カプセルトイという沼:なぜ人はガチャガチャを回すのか?』より)

4年で3倍、1960億円。カプセルトイは「第5次ブーム」

まず、市場の数字から見ていきましょう。

日本カプセルトイ協会の調査によると、2025年度のカプセルトイ市場は、製造元の出荷ベースで約1960億円になりました。前の年度の1410億円から39パーセント増で、過去最高を更新しています。4年前は650億円ほどでしたから、たった4年で3倍に伸びたことになります。

しかも、これは国内向けのカプセルトイ専用商品にしぼった数字です。イベントの物販や企業オリジナルのグッズまで含めると、2000億円を超えるとみられています。

販売個数は、年間でおよそ5億5000万個。日本の人口で割ると、ひとりあたり年に4~5個です。専門店も急増していて、2026年1月末の時点で全国900店舗以上、1年で200店舗以上も増えました。もう特別な娯楽ではなく、すっかり日常の買い物になっているのです。

大手メーカーのバンダイによれば、いまは「第5次ブーム」にあたるそうです。なぜここまで大きくなったのか。まずは、このビジネスがどこから来たのかをたどってみます。

カプセルトイが売っているのは「何が出るか分からない」こと

意外かもしれませんが、カプセルトイの仕組みそのものは、日本生まれではありません。原点は、19世紀の終わり、1880年代のアメリカに置かれた、ガムの自動販売機です。その後、1960年代に中身が透けて見える透明なカプセルが登場し、買う前に「何が入っているのだろう」とわくわくできるようになりました。

これが日本で本格的に始まったのが、1965年です。東京・台東区で創業したペニイ商会、いまの株式会社ペニイが、アメリカから自販機を輸入し、おもちゃ屋や駄菓子屋の店先に置いていきました。このペニイは、現在ではタカラトミーのグループ会社になっています。日本のカプセルトイの草分けが、いまも業界の中心にいるわけです。2025年は、この日本上陸からちょうど60周年にあたります。

草創期を支えたのが、重田哲夫さんと弟の重田龍三さんという兄弟でした。なかでも弟の龍三さんは、カプセルトイがどういう商売なのか、その本質を社員向けの教本に書き残しています。

それが、とても本質的なのです。普通の自動販売機は、買った人が望んだとおりのものが確実に出てきます。コーラを買ったのに別のジュースが出てきたら、お客さんは怒ってしまいます。でも、カプセルトイはまったく違う。お金を入れても、何が出てくるか分からない。普通の自販機が売っているのが「確実性」だとすれば、カプセルトイが売っているのは「ランダム性」、つまり、何が出るか分からないという体験そのものだ、というわけです。

これは、人間の心理の深いところを突いています。毎回かならず同じご褒美がもらえると分かっていると、人はだんだん飽きてきます。でも、もらえるかどうか分からないご褒美には、脳が強く反応し、ドーパミンが出て「次こそは」とつい続けてしまう。重田さんは、その仕組みを60年前に見抜いていたのです。