なぜ“イラン寄り”の内容に?
小川彩佳キャスター:
署名に至った今回の覚書ですが、イラン側に有利な内容になっているようにも思います。

【14項目の覚書 ポイント】
▼戦闘
即時かつ恒久的に終結
▼核問題
イランは核開発・購入をしない、濃縮ウランは現地で希釈・処分
▼ホルムズ海峡
アメリカ軍による封鎖は30日以内に終了
▼石油
アメリカはイランの石油輸出の制限を解除
なぜアメリカ側がここまで譲歩する形となっているのか、覚書の署名式が行われるスイスのビュルゲンシュトックの近郊にいるワシントン支局の涌井さんに聞きます。

ワシントン支局長 涌井文晶さん:
トランプ政権としては、当初は体制転換あるいはイランの核開発の将来的な完全な放棄を目指して攻撃を始めましたが、最高指導者のハメネイ師を殺害しても状況は変わらず、その後空爆を続けても体制は崩壊していません。
そうした中で、ホルムズ海峡の封鎖という逆襲を受けて苦しくなってきて、経済的な圧力をかけても事態が打開できない。どうすればいいんだとなって、交渉で大きく譲歩し、現在の地点にいると言えます。

そして、なぜこのタイミングになったのかと言いますと、11月に重要な中間選挙が国内で控えているからです。
今、アメリカはホルムズ海峡封鎖の影響でガソリン価格が大変高くなっていて、有権者の財布を直撃している状況です。このまま選挙に突入すれば、「トランプ大統領のせいでアメリカの生活は苦しくなった」と民主党に攻撃されて選挙で負けてしまうことになります。
ホルムズ海峡解放が実現しても、ガソリン価格が実際に下がるまでは時間がかかるとも考えられているので、ここがギリギリだったと見られています。
小川キャスター:
譲歩せざるを得なかったということですね。アメリカ側が掲げていた核開発をめぐる課題も先送りされました。多くの民間の人も巻き込んで子どもたちも多く命を落とした今回の戦争ですが、何をもたらす戦争だったのか、非常に疑問を持ちます。

斎藤幸平さん:
何ももたらさなかったし、何のための戦争だったのかなという感じです。
世界中を原油危機の混乱に陥れて、最終的に得た内容はオバマ政権の時の核合意よりも後退してるのではないかという話です。
さらに、日本に対して、復興資金の3000億ドルなど負担を求められることもあり得るので、それは勘弁してほしいなと思います。
藤森祥平キャスター:
アメリカ側としてはこの政策が失敗なのではないかという声も聞かれますが、今後60日間で覚書の最終合意を目指す中で、ホルムズ海峡を巡った通行料のあり・なしなどの隔たりは埋まりそうですか。

ワシントン支局長 涌井さん:
なかなか難しいのではないかと見られています。アメリカでは「戦闘では勝利したが、戦略的には失敗だった」という総括があります。これ以上アメリカが譲歩すると世論的にも厳しい状況ではありますが、なかなか埋まりづらいと考えられています。
そして通行料について、イラン側は今後60日間は無償で通航させると覚書にも書いてありますが、その後については書いてありません。
そしてイランは、「通行料」ではなく「サービス料」という名目で新たに課そうとしています。これは実質的には通行料と変わりませんし、そうなると戦争の前より状況は悪くなるということです。
そういう中でアメリカが妥協点を見つけられるか、今答えは見つかっていないところです。
藤森祥平キャスター:
イスラエルをコントロールできるかも問題ですね。

斎藤さん:
レバノンなどの話も含まれているので、これをイスラエルがそのまま黙って受け入れるとは思えません。60日間やってみた中で、合意を破る行為がいろいろなところで繰り返され、最終的にはまた戦闘が始まるという可能性も準備しておかなければいけないと思います。
小川キャスター:
結果として本当に逆戻りするというリスクをはらむわけですね。
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<プロフィール>
斎藤幸平さん
東京大学 准教授
専門は経済思想・社会思想
新著にベストセラーの続編『人新世の「黙示録」』

















