個人情報保護法と探偵業法にも“魔法の杖”

のちほど経営上の扱いについても触れることになるが、まずはジャーナリズム活動における“魔法の杖”から話を進めていきたい。最初は、法の条文で明確に特別扱いを規定しているものだ。ここでは2つの法律をあげる。いずれも通常の取材活動を想定すれば、あまりにも当たり前のことで、なぜわざわざ法律で定める必要があるのかと思うほどであるが、それは逆に言えば社会にその「当たり前」が浸透している結果でもある。

第1は個人情報保護法で、その57条(注3)で「適用除外」が定められている。

一般に個人情報の収集に際しては、本人から直接しかも利用目的を明示することが義務付けられているが、例えば政治家の汚職を取材する場合、その証拠となる情報を本人から許諾をとって直接提供してもらうことはありえないだろう。当然、第3者からこっそり入手する類いのものだ。そうした当たり前の取材行為を、法律上定めたものである。

同様の規定は探偵業法にもみてとれる。2条(注4)の定義において、わざわざ記者活動を除外している。それは、取材対象者の自宅等での待ち伏せや追尾行為が取材のイロハであることを勘案し、そうした一連の行為を包括的に除外することにしたわけだ。

ちなみになぜそこまで神経質になる必要があるかといえば、これらの法律ができた時期を考えると合点がいくはずだ。

個人情報保護法が2003年、探偵業法が2006年の制定だが、立法作業が行われていた時期には人権擁護法案(注5)が検討されていた。同法案は当時の与野党である自民・民主が競って法案作りをしたものであったが、いずれもその特徴は政治家への執拗な取材や報道を人権侵害として取り締まるという内容をもつものだった。まさに、政治家犯罪の追及を回避するための施策が与野党共通して立案されるような状況だったからこそ、報道界挙げての反対活動や政治折衝の結果、規制法案は廃案となり、一方で関連法には除外規定が設けられたということになる。

(注3) 第57条 個人情報取扱事業者等及び個人関連情報取扱事業者のうち次の各号に掲げる者については、その個人情報等及び個人関連情報を取り扱う目的の全部又は一部がそれぞれ当該各号に規定する目的であるときは、この章の規定は、適用しない。
一 放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道を業として行う個人を含む。) 報道の用に供する目的
二 著述を業として行う者 著述の用に供する目的
(以下略)

(注4) 第2条第2項 この法律において「探偵業」とは、探偵業務を行う営業をいう。ただし、専ら、放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいい、これに基づいて意見又は見解を述べることを含む。以下同じ。)を業として行う個人を含む。)の依頼を受けて、その報道の用に供する目的で行われるものを除く。

(注5) 2002年小泉内閣が提出した人権擁護法案、2005年民主党が提出した人権侵害救済法案、2012年野田内閣が閣議決定した人権委員会設置法案がある。いずれも濃淡はあるが取材報道規制条項を含む。