おわりに――瓦礫の前で法を編み直す
瓦礫に押しつぶされた人々が、本来であれば生きられるはずだった穏やかな世界を想像すること。この営みは、けっして専門家だけで完結するものではない。
むしろ今、私たちが希望を見出すべきは、権力によって国際法が固定化され、その本来の可能性が窒息しかけている現状に対し、全人格を賭けて異議を申し立てる「公衆(パブリックス)」の胎動である。
世界各地のキャンパスや路上で、彼らは既存の制度に従属する受動的な存在であることをやめ、暴力の回路を遮断するための直接行動を通じて、法の意味を現場で定義し直そうとしている。こうした公衆による応答は、大国の利害によって硬直化した実定法の枠組を突き破り、その外側には人道や正義を希求する未踏の可能性がいまだ豊かに広がっていることを、専門家にさえも力強く再認識させてくれる。
国際法の命脈は、大国を中心とする権力構造が埋め込まれた条約の文面それ自体に宿っているのではない。「こんな暴力は許されない」と瓦礫の前で立ち止まり、制度の歪みを正し、法を下から編み直そうと連帯する公衆の覚悟と、それに呼応する者たちの手の中にこそ、国際法は確かに脈打っているのである。
<執筆者略歴>
根岸 陽太(ねぎし・ようた)
西南学院大学法学部国際関係法学科教授
2017年 早稲田大学博士後期課程修了。博士(法学)。専門は国際法、国際人権法。
近年の業績として、『国際法-シナリオからはじまる』(共著、弘文堂、2026年)、「瓦礫の前から応答する——国際法を『働かなくさせる』瞬間に」『地平』(2026年)など。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














