今年に入って相次いだ米国・トランプ政権による他国への電撃的な軍事作戦。最高権力者を殺害したり、連れ去ったりする行為は、「国際法の遵守」という国際秩序の大前提を大きく揺さぶった。「国際法はこのまま死んでしまうのか」。そんな疑問さえ生じかねない現状を第一線の国際法の研究者はどう捉えているのか。西南学院大学法学部の根岸陽太教授による論考。

はじめに――消費される惨禍と、蔓延する虚無感

ロシアによるウクライナ全面侵攻が開始されてから4年以上の歳月が経過し、戦火は止む気配を見せない。そればかりか、その凄惨な破壊は私たちの日常的な風景として、液晶画面越しに日々消費されつつある。

のみならず、世界を見渡せばさらなる破局の連鎖がとめどなく広がっている。とりわけ米国・トランプ政権の予測不可能な振る舞いは、既存の国際秩序の土台を根底から揺るがす異常事態を引き起こしている。

国連安保理常任理事国としての特権的な拒否権行使や継続的な武器輸出を通じ、パレスチナ・ガザ地区で進行するジェノサイド的状況やヨルダン川西岸での違法な入植活動への加担が、公然と続けられている。さらには、米軍という圧倒的な武力を投入してベネズエラに侵入し、主権国家の元首を拉致しようとする斬首作戦や、イランの首都に対して奇襲攻撃を仕掛け、最高権力者をはじめとする要職者を次々と殺害する暴挙も引き起こされた。テヘランでは、未来ある少女たちの学び舎が彼女たちの命もろとも無残に破壊されるという、言葉を絶する光景が広がっている。

これらのあからさまな暴力に対し、世界の至る所から「国際法違反である」との切実な非難の声が上がっている。しかし、当のトランプ大統領は米紙のインタビューで「私に国際法は必要ない」と傲然と言い放ち、グリーンランドの領有に食指を伸ばし、「次はキューバだ」と他国の主権を蹂躙する更なる野心を隠そうともしない。

さらにはイランに対し、多大な要求を飲ませるための露骨な圧力として、「石器時代に戻す」「文明が滅びる」といった、およそ現代の国家指導者像からかけ離れた発言を残している。

米国 トランプ大統領

このような超大国の指導者による、圧倒的な暴力と剥き出しの無法を目の当たりにして、世間には「国際法には実効性や執行力がなく、結局は無力だ」という冷笑的な言説が漂い、さらには「国際法はもはや死んでしまった」という深い絶望さえ蔓延し始めている。

たしかに、積み重なる瓦礫の映像を前にして、平和や人道をうたう国際法の言葉はあまりにも空虚で、脆弱に響くかもしれない。

だが、国際法学者として私は、この安易な悲観的言説に与することはできない。国際法は寿命を迎え、無力化されたり自然死したりしたのではない。

国際法はこれまでも、圧倒的な武力と政治力を持つ国々によって恣意的に設計され、その都合の良いように解釈・適用されてきた。言うなれば、国際法は、むしろ権力のために「死ぬことを許されずに、働かされてしまっている」のである。