意図的に無視される日本の役割
ここまで、習近平指導部が掘り起こした55年前のピンポン外交について話してきました。ただ、重要な要素がすっぽり抜け落ちていることを強調しておきたいのです。
名古屋での卓球の世界選手権で、米中両国の橋渡しを担ったのは主催国・日本でした。元世界王者で日本卓球界の第一人者である荻村伊智朗、そして当時、日本卓球協会会長だった後藤鉀二(こうじ)は、名古屋での大会を前に北京へ渡り、首相の周恩来と会談して名古屋大会への参加を促しています。中国はその説得に応じて、中国卓球チームは日本で6年ぶりに世界の舞台を踏みました。
大会が始まり、名古屋で米中選手団の連絡役を務めたのも日本です。何より、バスに間違って乗り込んだアメリカ選手にプレゼントを渡した中国のエース、荘則棟は荻村伊智朗のテクニックを学び、腕を磨きました。荘則棟は生前、「若き日の私にとって日本の選手が先生でした」と述懐するほどでした。
日中関係が冷え込んでいることもあって、日本の果たした役割は今、無視されています。比較してみましょう。ピンポン外交からちょうど50周年の2021年のことです。コロナ禍にもかかわらず、半世紀前の世界選手権の開催地・名古屋で「ピンポン外交50周年記念シンポジウム」が開かれました。当時の中国の駐日大使はオンラインで基調講演し、「ピンポン外交は中国・日本・アメリカ3か国にとって、特別な歴史的意義を持ちます」と語りました。日本が果たした役割を忘れず、称賛していたのです。
半世紀の50周年と55周年では、確かに重みが違うでしょう。ただ、5年刻みであれ、中国人は本来、節目をとても大切にします。それなのに中国サイドは今回、日本を完全無視しています。
台湾有事をめぐる高市総理の国会答弁から半年が過ぎました。中国は日本批判を拡大するばかりで、関係改善の兆しは見えて来ません。
5月14、15日のトランプ大統領の中国訪問まで、あと数日。ピンポン外交を掘り起こし、パンダをアメリカに貸し出す中国は、米中友好を演出するでしょう。一方の日本については、今、日本との関係を改善する必要性を感じていないため、意図的に無視しているのです。同時にそれは、西半球はアメリカ、東半球は中国がそれぞれ支配するという時代の序曲なのかもしれません。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。














