開催地の群馬に拠点を置くSUBARUが独自スタイルの強化で力をつけ、前回は2位とサプライズともいえる結果を出した。
23年最初の全国一決定戦であるニューイヤー駅伝は、前回優勝のHonda、2年前優勝の富士通、戦力充実が著しいトヨタ自動車、九州大会優勝の黒崎播磨が4強と言われている。そこに大迫傑(Nike・31)が“参画”するGMOインターネットグループも加わる勢いだ。
SUBARUは2区のキプランガット・ベンソン(19)で、トップに立った前回の再現が期待できる。3区の梶谷瑠哉(26)がつなぎ、4区の照井明人(28)が「区間賞を狙う」と明言するほど好調だ。5区に10000m27分31秒27(日本歴代8位)の清水歓太(26)、6区に甲佐10マイルで好走した新人の長田駿佑(23)、そして7区に向かい風にも強い口町亮(28)とタスキをつなぐ。
しかし目標は、前回が2位だったから優勝を狙う、とはしなかった。8位入賞である。
奥谷亘監督が「手堅く連続入賞を目標にする」とした理由とは?

充実の照井が“地元の利”を生かして4区区間賞に意欲

今季のSUBARUで一番の戦力アップが照井である。「ようやく(4区が)来ました」と笑顔を見せるほどだ。

「各チームのエースたちと戦えることはすごく楽しみですし、その先のマラソンにも自信になる。ずっと走りたかった区間でもあるので、楽しみでいっぱいです」

前回のニューイヤー駅伝は5区で区間3位。照井で2位に浮上したSUBARUは、6区、7区とその位置をキープして過去最高順位でフィニッシュした。
10000mで日本トップレベルの証しである27分台は持っていないが、今年はトラックの記録も安定していた。「夏には非公認ですけどマラソンで目標としていたタイムよりも速く走ることができました」。11月の東日本予選3区で区間賞、八王子ロングディスタンス10000mで28分25秒21、12月4日の甲佐10マイル9位(46分09秒)と続けた。「勢いもあるのでその勢いを消さず、ニューイヤー駅伝はチームの入賞を目標に走れれば」と明るく話す。

照井は地元の利を最大限に生かそうとしている。4区コースの後半はSUBARUが拠点とする群馬県太田市で、照井は練習で本番コースを何度も走っているのだ。特に重点を置いているのが「高林の交差点曲がってからのラスト3km(実際には約3.5km)」だ。

「あそこを一番速く走る人が区間賞を取ると思っています。年間を通して使うコースですが、特に12月に入ってからはあそこしか走らない(笑)。熟知しているので、どこで動かして(力を入れて)、どこで力を抜くのがいいかわかっています。ラスト3kmは誰にも負けたくありません」

2区のベンソンが前回のようにトップに立つか、それに近い位置まで上がるだろう。3区の梶谷が踏ん張れば、4区の照井で再び先頭争いに加わることも可能になる。

2年前の東日本予選落ちで独自の強化スタイルに変更

サプライズだった前回の2位は、2年前に東日本予選落ちをしたことで、チームが自己変革したことで成し遂げられた。
SUBARUは2020年11月の東日本実業団駅伝で5区の選手が途中棄権となった。奥谷監督は「5区間を走った選手が脱水症状を起こしたからですが、全体でも走れていなかった」と、チームの問題として捉えた。コロナ禍や監督が設定する目標が高すぎたこと、棄権した選手のアクシデントと考える選手もいたが、自分たちの中に原因があると考える選手が増え始めた。
そのタイミングで照井が移籍加入した。21年2月のことだ。奥谷監督は照井が良い影響をチームに与えたという評価をしていたし、照井自身も次のように感じている。

「予選落ちの悔しさをまだ引きずっていた頃でした。そのタイミングが自分が入って、今はもう抜かれていますが、そのときはトラックのタイムで自分がトップだったんです。ロングインターバルなどSUBARUではやっていなかったメニューを自分がやって、みんなに刺激入った部分もあったかもしれませんが、一番は一人ひとりが悔しさをもって何かを変えなければいけない、という思いがあったことだと思います」

奥谷監督は予選落ちを、強化スタイルを大きく変えるチャンスと判断。練習メニューの立案を選手個々に任せる方向に変え始めた。その先頭に立ったのが新しくキャプテンになった梶谷と、同学年でエースに成長する清水だった。

梶谷は「自主的に考えて陸上競技に取り組むようになりました」と説明する。合宿などは一緒のメニューを行うが、それ以外は「チームで一緒に行うメニューは駅伝前に2回くらい」だという。「選手自身が練習を組んで結果を出す。自分で立てるからには責任も生じますし、モチベーションも上がります」。

外部のトレーナーとも積極的に連携し、選手一人ひとりがオリジナルのメニューを行い始めた。その先頭を走ったのが地元・群馬県出身の清水で、9月の全日本実業団陸上5000mで13分22秒25など日本トップレベルの記録を出した。米国の世界トップ選手が多数所属するバウワーマン・トラッククラブの練習に参加し、今年3月には10000mで27分31秒27(日本歴代7位。現8位)と世界陸上オレゴン参加標準記録に迫った。

だが自信を追い込む練習を考え、実行することは、言葉では簡単だが実際には難易度が高い。奥谷監督は以前からそうしたやり方を考えていたが「一気に変えられたのは予選落ちし、待ったなしの状況になったから踏み切ることができたんです。痛みを伴っていたからできたことで、選手もそこの覚悟ができたから変えられた」と2年前を振り返る。
前回のサプライズ2位は、チーム全体の前向きな姿勢や選手たちの思いが走りに現れたからこそ成し遂げられた。