『超かぐや姫!』現象を支えるのも<体験価値>
この文脈で、冒頭の『超かぐや姫!』現象も、同じ潮流として理解できそうだ。コロナ禍によって映画館の役割が変化し、新作を見つけることとは別に、大好きなコンテンツを味わい尽くす場所としても機能し始めているのではないか。
ただ、そうだとしてもNetflixでの配信を前提とした『超かぐや姫!』が、配信開始からたった1か月で劇場公開できたのは不思議だ。当初から綿密に仕組んだに違いない。『超かぐや姫!』の企画・宣伝・配給を担当するツインエンジンの山本幸治氏と、日本のNetflixでアニメ作品を統括するコンテンツ部門ディレクターの山野裕史氏に話を聞いた。
作品は「竹取物語」の古典的世界と、現代ポップカルチャー(メタバース・Vtuber・ボカロ音楽など)が融合した斬新さ、そして無限に広がるような美しいビジュアル世界が魅力だ。この作品なら映画館でも成功するとの前提で、「配信から劇場への流れをあらかじめ仕組んだのですね?」と私は質問した。
ところが「いえ、そうではありません」との山本氏の答えに意表を突かれた。
「配信開始を記念して1回限定で実施したプレミアム上映会の反応が良く、また、配信後の反響もものすごかったので、劇場公開を決めたのです。そこから動いて19館で公開してもらえました」
あらかじめ仕組んだわけではないが、Netflix契約の過去2作(『雨を告げる漂流団地』『好きでも嫌いなあまのじゃく』)で配信と劇場の同時公開にトライしたからこそ、スピーディに劇場展開もできたのだろう。
Netflix側は配信中の作品の劇場公開に反対しなかったのか。山野氏はこう言う。
「こうじゃなきゃいけないというルールはうちにはありません。作品にとって一番ベストな形を柔軟に考えています。今回は、一緒にヒットを作る目標のためにまず配信に集中しましょう、と私からもお願いしました」
そもそも前の2作品ですでに配信と同時の劇場公開をよしとしていたNetflixだから、『超かぐや姫!』の配信後の劇場公開に反対するはずもない。
2月20日から「1週間限定上映」として19館からスタートすると、いきなり興収ランキング5位に登場。「1週間限定」を撤廃し、公開規模も100館以上に拡大している。
配信で見られるのに映画館に押し寄せるほど、登場人物たちに魅入られているのだ。配信では自分の日常空間の中で作品を愛おしみ、劇場では大きな画面と大音響で音楽と映像を堪能する。これは<体験価値>そのものだ。
「ファンの方たちが配信で“ウォッチパーティ(同時に視聴してSNSで盛り上がる)”を開催してくださっています。その流れもあり、3月20日(金)には18:30から『ポスト可能上映』(劇場で映画鑑賞中にスマートフォンでSNS投稿を可能とした上映)を行い、自宅からも劇場公開と同時刻に再生することでウォッチパーティーに参加出来るような新しい機会も生まれています」と楽しげに山野氏が説明する。
上映中にスマホをいじることを、劇場側はよく許したものだ。
「劇場が作品を信じてくださってるから成立する企画です。もちろん、またお客さんが来てくれるとの期待もあると思います。3月21日、22日には発声可能上映(応援上映)も行われています」と山本氏が解説してくれた。
そこには、送り手と劇場、そして観客が一体となって作品を盛り上げる、最も幸福な<体験価値>があるのだと思う。
古い映画ファンの私は、新たな作品と出会う場としか映画館を捉えていなかった。だが自分で気づかなかっただけで、映画館はそもそも大画面と大音響で映像を楽しむ<体験価値>を堪能する場所でもあった。<体験価値>は映画館に、古くて新しい変化を促すキーワードかもしれない。
〈執筆者略歴〉
境 治(さかい・おさむ) メディアコンサルタント/コピーライター
1962年 福岡市生まれ
1987年 東京大学を卒業、広告会社I&Sに入社しコピーライターに
1993年 フリーランスとして活動
その後、映像制作会社などに勤務したのち2013年から再びフリーランス
現在は、テレビとネットの横断業界誌MediaBorder2.0をnoteで運営
また、勉強会「ミライテレビ推進会議」を主催
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














