映画館にいま新しい潮流が生まれている。ハリウッドの新作が中心だった頃から様変わりし、多くの観客は映画館でしか得られない楽しみ方を求めて足を運んでいる。こうした新たなトレンドに共通するキーワードは<体験価値>だ。メディアコンサルタントの境治氏による論考。
コロナ禍を境に起きた大きな変化
筆者は毎週映画館に通う。次に何を見るか選ぶのも楽しみの一つだ。2月後半の連休も、行きつけの川崎チネチッタの上映スケジュールを見ていて驚いた。2月20日公開の『超かぐや姫!』が、朝から晩までほぼ完売だったのだ。公開直後とはいえ、こんなこと滅多にない。
しかもこの作品、1月からNetflixで配信されている。配信版の続きが劇場版かと思ったが、調べるとまったく同じ映画だった。Netflixでいつでも見られるのにわざわざお金を払って見ているのか?しかも朝から晩まで満員!一体どういうことだ?
映画館でいま大きな変化が起きている。最初に気づいたのは、上映作品数がやたらと多いことだ。
あるシネコンで上映中の映画を数えたら、38作品が並んでいた。名の知れた俳優が出るハリウッド大作が公開翌週には上映回数1回に減り、朝8時台に追いやられる。その代わりに、あらゆる国の多様な映画が並ぶ。コンサートや演劇などを収録したODS(Other Digital Stuff)も様々に上映される。
1月の日本の劇場公開作品数の変化を調べてみた。2024年は98本だったのが2026年は150本に加速度的に増えている。国別に見ると、米国以外の国の映画が30本から41本に、米国映画もインディペンデント系作品が増えて10本から30本に増加した。つまり、全体としてハリウッドメジャーからそれ以外の作品へと多様化している。
これは、ハリウッド作品が日本で当たらなくなっていることに起因するだろう。3月に発表されたアカデミー賞では『ワン・バトル・アフター・アナザー』と『罪人たち』が賞を分け合った。世界で大ヒットしたこの2作だが、日本ではさっぱり。前者は興収6億円、後者は興収記録さえ見当たらない。
コロナ禍を境に、日本の映画興行市場は劇的に変化し、世界とは違う道を歩み始めている。2019年の日本映画市場の内訳は邦画54.4%に対し洋画45.6%。コロナ禍前は、邦画がやや優勢ながら洋画との拮抗状態が続いていた。
コロナ禍で沈滞したのち日本映画市場はめきめき復興し、2025年には興行収入が2744億円と過去最高を記録。だが邦画の割合が75.6%になったの対し、洋画は24.4%と圧倒的な差がついてしまった。
この差をもたらしたのはアニメ映画だ。一昔前のアニメ映画は、「ドラえもん」など春夏休みの定番映画と、数年に一度ジブリ作品のメガヒットが出るパターンだった。それがいま、アニメ映画は百花繚乱。10億円以上のヒット作は20年前は定番作品を中心に7本前後だったが、2025年には14本と倍増。一方洋画の10億円以上作品は、2000年代は平均26本程度だったのに、2025年は12本。ハリウッド映画とアニメ映画のポジションが入れ替わった。
そんな分析をしていた筆者の前に現れたのが『超かぐや姫!』の配信・劇場の同時ヒットという新現象だった。これはどう解釈すればいいのかわからない。














