プレイングディレクターとしてチームメイトにアドバイスする役割も

だが駅伝は、1人では勝つことができない。大迫が何人を抜いても、トップに立っても、他のメンバーが抜かれたら目標の“ナンバーワン”は実現できない。
GMOインターネットグループの1区候補は10000m前日本記録保持者の村山紘太(29)で、3、4、5区を大迫と吉田祐也(25)、今江勇人(24)で分担することが予想される。

吉田は東日本大会6区区間賞で、10000mでも11月に27分51秒26の自己新をマークした。2区候補のG.K.ロノ(19)は東日本大会2区こそ区間10位だったが、10000mは27分11秒03と国内実業団在籍の外国人選手の中でもトップレベル。
今季加入した今江は千葉大大学院卒という異色の経歴だが、11月には10000mで27分50秒93をマーク。5000mも13分34秒58のスピードがあり、3区でも通用するかもしれない。

そして大迫が、各選手の調整にも関わる。前述の②チームディレクション契約だ。

大迫選手

「ただ走ってお金をもらうだけだと、僕自身が納得できなかったんです。やるのであればチーム全体も強くして、僕だけがハッピーじゃなくて、みんなが勝ちに行けるチームを作りたい。それでプレイングディレクターという立場をいただきました。まずチームの目標に対してのディレクションをしていく。選手それぞれが、それぞれの目標に行ってしまってバラバラになっているケースが多いんです。今回はそこをギュッと、1本の線にみんなが乗れるようにディレクションをさせていただきました。トレーニングメニューもアイデアを出しますし、ニューイヤー駅伝に向けてどういう大会を選んだらいいのか、スケジュールを含めてディレクションさせていただいています。今回は駅伝に向けてコミットしていますが、やっていることはシンプルなことで、優先順位を付けて無駄をなくしまっすぐに進んで行くことなんです。今回のニューイヤー駅伝でそこを学んでもらえたら、その先の大会でも生かせる。そういったマインドを共有してもらえたら」

もちろん、大迫のディレクションだけが選手の戦績に関わるわけではない。監督やコーチのアドバイスはもちろん、GMOインターネットグループが提供する競技環境も大きく影響する。そして一番は選手自身のモチベーションだろう。だが実業団のように最高レベルの戦いでは、最後のひと伸びが重要になるし、そこに大迫のディレクションがプラスに働く可能性は十分ある。

次世代のアスリートのために

8年前の大迫は自身が強くなることだけに集中することで、パフォーマンスが上がった。15年世界陸上北京大会、16年リオ五輪とそのスタイルで10000m代表になった。
しかし17年からマラソンに進出し、2度の日本記録更新と東京五輪6位入賞を達成した。種目がマラソンだったから、とは言いきれないが、世界と戦うには自分1人だけの力では難しいと気づいた。日本長距離界の力を結集させたり、そのために底上げをしたりすることが必要だと考えるに至った。自分が世界トップに届かなければ、戦うのは次の世代になってもいい。

「特に一度ランニングから離れている間に、大きなコミュニティで戦っていかないと、大きなことは達成できないと強く感じました。自分だけが強くなるために情報を抱えるのでなく、適切な形で情報を共有して、もしかして自分が到達できないところに次の世代のアスリート、さらに次の世代のアスリートが行けるようなことをしていきたい」

その考え方を持つようになって徐々に、雰囲気が丸くなったと自身も感じている。2015、16年頃は「絶対に負けちゃいけない」という意識が強かった。今もその気持ちは同じだが、「良い意味で自信がついたというか、余裕が出てきたところはあるかな」と感じられるようになっている。それが走りにもプラスに現れると、自分に期待している部分もある。

「客観的に見て自分がどんな結果を出していくのか楽しみですね。もしかしたらもっとストイックにやった方がいいのかもしれませんし、それが自分らしさだったのかもしれませんが、今はそれを求めていません。もっと視野を広く持って、メンタル的に自由に走ることを意識しています。そういう僕がどんな結果を出していくのか、実験として面白い。昔は結果を出せるのか不安の方が強かったですけど、今も生活がかかっているので不安はもちろんありますが、それ以上に楽しみな部分がちょっとだけですけど上回ってきたかな」

8年前の大迫と、今回出場する大迫は大きく違う。その違いが日本長距離界に大きな影響を与えていくかもしれない。大きな節目となる2023年元旦のニューイヤー駅伝は必見だ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)