23年最初の全国一決定戦であるニューイヤー駅伝は、前回優勝のHonda、2年前優勝の富士通、戦力充実が著しいトヨタ自動車、九州地区予選優勝の黒崎播磨が4強と言われている。そこに大迫傑(Nike・31)が“参画”するGMOインターネットグループも加わる勢いだ。
大迫は東京五輪マラソンで6位に入賞後、一度は引退した。しかし今年2月に復帰を表明。6 月にトラックの5000mで復帰すると、11月6日のニューヨークシティ・マラソンでは5位に食い込んだ。そこから2か月で挑むニューイヤー駅伝は、大迫にとってどんな位置づけになるのだろうか。そして大迫が8年ぶりに出場することは、日本の長距離界にとってどんな意味があるのだろうか。

8年ぶり出場の狙いの1つに“第3の選択肢”を見せること

大迫は過去に一度、ニューイヤー駅伝に出場したことがある。日清食品グループ入社1年目の15年大会1区に出場。34分47秒で区間賞を取った。残り1kmからスパートを見せ、区間2位に5秒差をつける強さだった。
当時、すでにナイキオレゴンプロジェクトに加わり、練習は米国オレゴンで行っていた。そして区間賞を置き土産に日清食品グループを退社。Nike所属のプロランナーとして活動を始めたため、それ以降はニューイヤー駅伝には出場していない。

今回のニューイヤー駅伝出場を前に、高橋尚子さんと対談したときに大迫は次のように振り返った。「8年前は単純にチームに必要とされていたので走りました」(※以下、断りがない大迫コメントは対談時のもの)。そこまで積極的な気持ちではなかったことを明かしている。

「でも今回はそうではありません。僕が走ることで少なからず陸上界全体が盛り上がればいいな、と考えています。僕自身が能動的に走りたいと思ったから出場するのです」

大迫が“参画”という言葉を使った理由は、所属はNikeのまま①ニューイヤー駅伝出走契約②チームディレクション契約③スポンサー契約をGMOインターネットグループと結び、「プロとして実業団駅伝を走る」からだ。

「大卒後の選手はこれまで2つの選択肢があって、1つめは実業団に入ること、2つめはプロとして活動することでした。今回僕が3つめとして、プロとして実業団駅伝を走る選択肢を提示します。3つのオプションがあることで選手の活動の幅が広がり、より世界に飛び立ちやすくなる」

10月のGMOインターネットグループ参画会見で、大迫は上記のように話した。
高橋尚子さんとの対談時にも「自分だけじゃなくて日本全体として、アジア全体として強くなっていくには、まずは裾をちゃんと広げていけるように、そこにいる選手たちがみんなモチベーションを高くできるような関係をより作っていかなければいけないな、という思いで参画しました」と話した。
2度目のニューイヤー駅伝出場は、1回目とは大きく違った意味を持つ。

引退から復帰、ニューイヤー駅伝出場へ

大迫は東京五輪を最後に、現役を引退することは決めていた。区切りを決め「ゴールを明確に見ないと頑張りきれない」と思ったからだ。その決断にも東京五輪の6位という結果にも悔いはなかったが、しばらく休むと2日に一度は走っていた。そして昨年10月のシカゴ・マラソンで、元チームメイトのゲーレン・ラップ(36、米国)が2位(2時間06分35秒)の走りを見せた。それが大迫にとっては良い意味で衝撃だった。

「東京五輪から短期間で、違うマラソンを走って結果を出しているのが格好良かった。そもそも走っている姿が僕にとって刺激的でした。見る側ではなく、もう一度やる側に戻りたい」

今年6月に5000mで競技復帰すると(13分30秒23)、マラソン復帰レースは11月のニューヨークシティ・マラソンで5位。タイムは2時間11分31秒で自己記録とは6分の開きがあったが、起伏の多くある難コースでペースメーカーも付かない大会である。トップ選手が集うワールドマラソンメジャーズでの5位は、悪い結果ではなかった。

ニューイヤー駅伝は次のマラソンに向けてのステップになるが、大迫は先のことを考えるより、目の前のレースに全力投入する。「オリンピックでもワールドマラソンメジャーズでも、まずそこに力を出し切ります」。大迫自身は口にしなかったが、そうすることが次の大会につながっていく。具体的には駅伝でどんな走りをしたいと考えているのか。

「任されるのは重要な区間だと思っています。よーいドンじゃなく、スタートの時点で何人か前にいる。ポジションによっては追いついて、どこかで1回休んで、という走り方も想定しています。それも駅伝の面白さです。(先頭を走るより)追った方が断然楽です。色々シミュレーションして、しすぎない方がいいこともありますが、走れたらなと思っています」

GMOインターネットグループの亀鷹律良監督は、大迫の出場区間を「3区か4区」と明言している。どちらの区間でも前を追う展開になりそうだが、3区の方がより多く、前に選手がいる可能性は高い。大迫が何人を抜くか。今回のニューイヤー駅伝の大きな注目点だ。