AIを活用した犯罪捜査・抑止のこれから
本稿では、AIを活用した犯罪捜査・抑止の動きとして予測型警察活動に注目し、日本の神奈川県警の取組みと、アメリカにおける先進事例とその問題点をたどってきた。あわせて、こうした警察活動をどのように捉え、どのように統制すべきかについて、ファーガソン教授の提示する「監視(oversight)」の視点を紹介した。
神奈川県警の取組みは、犯罪予測の対象を特定の個人に広げず、地域単位での犯罪予防に限定してAIを活用している点に特徴がある。予測結果の公開にあたっても、個別の事件や関係者が推測されないよう配慮がなされており、プライバシー保護への意識が高い。こうした姿勢は、予測型警察活動に内在するリスクを強く意識した、慎重な運用として評価できる。
一方、今後、日本においてAIを活用した犯罪捜査・抑止がさらに高度化し、活用の幅が広がれば、個別の運用上の工夫だけでは対応しきれない課題が生じる可能性がある。アメリカの事例が示すように、予測型警察活動は、透明性や説明責任の不足、さらには差別や偏見といった問題を後から顕在化させてきた。技術が高度になるほど、その影響は見えにくくなり、社会的なチェックが及びにくくなる。
こうした点を踏まえると、ファーガソン教授が示した多角的な「監視」の枠組みは、日本における今後の議論にとって重要な手がかりとなる。
日本でより先進的なAIを活用した犯罪捜査・抑止を実装していくためには、あらかじめファーガソン教授が示したような管理体制を整え、議論を重ねながら運用していくことが求められるように思われる。AIは、適切な統制のもとに置かれてこそ、治安の向上と市民の信頼を両立させる手段となり得るのである。
注1 守山正編著『犯罪予測 AIによる分析』(成文堂、2022年)
注2 神奈川県警「調査報告書:産学官連携による人工知能を活用した犯罪・交通事故発生予測技法の調査研究」(平成31年3月)
注3 守山正「講演 AIの利活用による警察活動の将来 : 犯罪予測を中心に」警察政策研究27号(2023年)
注4 アンドリュー・ガスリー・ファーガソン著、大槻敦子翻訳『監視大国アメリカ』(原書房、2018年)
注5 Andrew Guthrie Ferguson, Policing Predictive Policing, 94 WASH. U. L. REV. 1109
(2017年)
<執筆者略歴>
尾崎 愛美(おざき・あいみ)
筑波大学ビジネスサイエンス系准教授。
慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(法学)。
株式会社KDDI総合研究所アナリスト、慶應義塾大学大学院法学研究科助教、杏林大学総合政策学部総合政策学科専任講師を経て現職。
主な著書に、「犯罪捜査における情報技術の利用とその規律」(慶應義塾大学出版会、2023年)、山本龍彦・小川有希子・尾崎愛美・徳島大介・山本健人編著「個人データ保護のグローバル・マップ」(共著:弘文堂、2024年)ほか。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














