予測型警察活動には「監視」が必要~専門家が指摘する9つの視点~

アメリカでは、先進的な予測型警察システムが実装される一方で、その副作用やリスクが事後的に顕在化してきた。こうした状況を体系的に分析しているのが、『監視大国アメリカ(注4)』の著者としても知られるジョージ・ワシントン大学ロースクール教授、アンドリュー・ガスリー・ファーガソンである。

ファーガソン教授は、予測型警察活動を単なる業務効率化のための技術ではなく、社会のあり方を変え得る存在として捉え、「監視(oversight)」の対象として位置づけ直す必要があると指摘したうえで、予測型警察活動を評価・統制するための視点として、(1)データ、(2)方法論、(3)社会科学、(4)透明性、(5)説明責任、(6)実務への導入、(7)組織の管理・運営、(8)将来的な方向性、(9)セキュリティという九つの観点を提示している(注5)。以下では、予測型警察活動について検討するうえでの一つの指針として、ファーガソン教授の提示する視点を詳しく見ていく。

(1)データ

AIは大量のデータを前提とするが、そのデータは必ずしも正確でも中立でもない。犯罪はそもそもすべてが記録されるわけではなく、通報されにくい犯罪や犯罪類型ごとの情報不足といった問題も避けられない。

さらに重要なのは、AIに基づいた活動自体がデータに影響を与える点である。特定の地域や集団への接触が増えれば、その結果が「リスクが高い」という評価として再びデータに反映されてしまい、負のフィードバックループが生まれる危険を孕んでいる。

こうした問題に対しては、データに誤りや偏りが避けられないことを前提とし、監査や検証、現場での訓練、技術的工夫によって影響を最小化する姿勢が求められる。ただし、完全な是正には限界があることも認識しておく必要がある。

(2)方法論

AIが示すのは多くの場合「相関関係」にすぎない。とりわけ個人を対象とする予測では、統計的な相関を因果と誤認したまま警察権力が行使される危険性が大きい。個別の具体的な疑念がないにもかかわらず、「予測で特定された」という理由だけで捜査を正当化すべきではない。

そのため、導入地域ごとに独自の検証を行い、成功例を安易に一般化しないこと、長期的な視点で有用性を評価すること、個人に対する予測については追加的なチェック体制を設けることが不可欠となる。

(3)社会科学

予測型警察活動は犯罪学理論に支えられてきたが、実証研究の蓄積を上回るスピードで導入が進んできた。科学的根拠が十分に整わないまま普及してきたという側面がある。今後は、技術の効果を比較・検証するための研究資金を確保し、エビデンスに基づく検証を積み重ねていくことが求められる。

(4)透明性

データがどのように収集され、どのように使われ、どのような効果が測定されているのかが見えなければ、技術の妥当性を検証することはできない。とりわけ、アルゴリズムがブラックボックス化し、民間企業のソフトウェアに依存している場合、外部からの検証は著しく制限される。

専門家によるレビューや独立監査の導入、評価指標の公開、組織内研修やコンプライアンス体制の整備が、透明性確保の前提となる。

(5)説明責任

予測型警察活動では、誰がどの判断に責任を負うのかが曖昧になりがちである。技術が常に更新され続けることも、責任の所在を不明確にする要因となる。もっとも、データの公開や評価プロセスを制度化すれば、警察活動の意思決定を記録し、検証可能な形で残すことができる。AIは、使い方次第で説明責任を弱めることも、強化することもあり得る。

(6)実務への導入

AIの出力は、警察官の行動を意図せず方向づける。特定地域への警察資源の集中は、当該地域を過度に危険視する認識を生み、他の地域への注意を弱める可能性がある。

こうした影響を抑えるには、導入後の現場運用を検証する管理・監督の仕組みと、警察官への適切な訓練が欠かせない。適切に運用されれば、AIは警察と地域社会の信頼関係を補完する役割を果たし得る。

(7)組織の管理・運営

逮捕数や犯罪率といった数値が評価基準になると、警察活動はそれらを達成する方向に引き寄せられる。そこに自動化バイアスが加わると、警察資源の配分が固定化し、全体として犯罪抑止の効率を損なうおそれがある。

データを単なる評価基準ではなく、状況把握のための戦略的インテリジェンスとして用い、予測型警察活動と他の警察活動と柔軟に組み合わせることで、AIへの過度な依存を防ぐことができる。

(8)将来的な方向性

予測型警察活動が犯罪件数などの「見えやすい結果」に偏ると、犯罪の背景にある社会的要因を見失いかねない。一方でAIの設計次第では、支援を必要とする人を早期に把握し、社会サービスにつなげるといった活用も考えられる。予測型警察活動の将来は、警察活動そのものを点検し、組み替えるための道具として構想できるかどうかにかかっている。

(9)セキュリティ

予測型警察活動は、個人情報を含む大規模データベースを前提とするため、情報漏洩や不正利用のリスクに常に晒されている。とりわけ、民間事業者のデータやシステムと連携する場合にはプライバシー侵害のリスクが拡大しやすい。

設計段階から安全性を組み込む「セキュリティ・バイ・デザイン」の発想のもと、アクセス管理、暗号化、監査、職員教育、不要データの最小化を徹底すべきである。