温かさと切なさの間で
ドラマの主人公、楽曲の主人公、そして自分自身。それぞれが重なり合いながらも独立して存在することで、楽曲の世界はより豊かになるという。「ポケットに魔法を入れて」について、その三者の割合を尋ねると「はっきり分かれている感じではない。グラデーションがある気がします」と表現した。
制作では最初のメロディーが生まれるまでに苦悩もあった。「温かいだけでも足りないし、切ないだけでも足りない。じゃあ、どういう楽曲なんだろうと悩みました」と振り返る。
アレンジは冒頭をエレキギターと歌のみのシンプルな構成にし、引き算を意識。一方で、サビではストリングスやコーラスを重ね、ドラマチックな広がりを持たせた。孤独の中でしゃがみこむ主人公が、やがて前を向き世界を開いていくようなイメージを重ねたという。
サビ後半では1拍ごとにコードが変わる構成にし、高揚感を演出。さらにディミニッシュコード(全ての構成音を短3度(半音3つ分)ずつ積み重ねた、非常に不気味で不安定な響きがする4和音(または3和音)のこと)という不安定な響きを持つコードも取り入れることで、「ただ落ち込んでいる人を描くのではなく、揺らぎの中から立ち上がる強さを描き、どこか軽やかでたくましく見える曲にしたかった」と語り、細部まで思いを込めたことを明かした。
20年という節目を迎えた今も、根本にあるのは変わらない音楽への欲求だという秦さん。ただ、その向き合い方は確実に変化した。時には手放すことも選びながら、それでも音楽と誠実に向き合い続ける。
「楽しめる自分でいたい。それが一番大事かもしれないですね」。その言葉からは、節目を迎えた現在地が確かに伝わってくる。














