年をとることが、少しも怖くなくなる

永瀬清子さんの生家の窓から見える紅梅

(詩人 小池昌代さん)
「永瀬さんの詩を読んでいると、一人の女性として年を重ねていくことが、まったく怖くなくなります。

永瀬さんみたいな人がいたんだ。

その事実と、彼女が残してくれた言葉が、私たちにものすごい力を与えてくれるのです。生涯をかけて懸命に生き、その一つひとつが詩になった。その全人格的な詩は、私たちを力づけてくれます。

どんなに年をとっても、その中心にある瑞々しさを最後まで失わなかった方でした。

晩年に書かれた『あけがたにくる人よ』という作品があります。

あけがたにくる人よ
ててっぽっぽうの声のする方から
私のほうへしずかにしずかにくる人よ
(「あけがたにくる人よ」の一部)

実際に明け方に聞いた山鳩の声から、こんなにも瑞々しい恋歌が生まれるなんて、本当に素晴らしいことです。

この詩の中の『くる人』とは誰なのかとよく聞かれたそうですが、永瀬さんは特定の誰かではないと答えていたようです。ある方は、これは『詩の化身』そのものではないかとおっしゃいました。明け方に降りてくる詩そのものが、人格を帯びて現れる。詩を書く人間にとって、それはとても腑に落ちる解釈です」