■巨大な基地建設に動き出した「馬毛島」、賛成派と反対派で真二つ
そんな中、南西諸島のある島では巨大な基地建設が動き出していた。

島の名は“馬毛島”。鹿児島県西之表市の馬毛島は種子島のわずか12キロ西に位置する無人島だ。
周囲16.5キロ。島全体が4年後には総工費5000億円を遙かに超える巨大基地に姿を変える。莫大な防衛予算が注ぎ込まれるのだ。

2本の滑走路や埠頭、台湾有事を見据えて“継戦能力”を高める大規模な火薬庫や燃料施設が建設される。
アメリカの空母艦載機が、タッチ・アンド・ゴー(離着陸訓練)を行い、“空母化”された海上自衛隊の護衛艦も接岸する。
あらゆる訓練が実現する島を“ワンダーランド”と呼ぶ防衛省関係者もいるほどだ。

元島民で西之表市に住む漁師の山下六男さん。温暖化で魚は捕れなくなり、水が少ない島では農業も行き詰まり、島を離れた。
山下六男さん「ほとんど(魚は)とれないようになった。昔いた魚はいなくなった。水温の関係かな。(昔は)たくさん魚がとれて、伊勢海老もすごくとれて、量があったんですよ。それで生活が成り立っていた」

1950年代、島には約100世帯500人が住んでいた。運動会も開かれ島は活気に溢れていたという。
夫婦で漁に出て生計を立てた。しかし今は島に帰ることも叶わない。
山下さん「持ってた畑も滑走路になってるから、滑走路の下に埋まってしまった」
馬毛島は41年前に完全に無人島になった。現在は防衛省の管理下にある。


西之表市は馬毛島に基地を誘致して過疎を解消しようとする賛成派と反対派で真二つに割れた。

これは防衛省の住民への説明資料だ。在日アメリカ軍の訓練や移転を受け入れた自治体への“再編交付金”や補助金がずらりと列挙されている。
交付金を受けた沖縄県名護市を『学校給食費の無償化と共に質の向上に活用』と紹介している。

そして住民の声として、「給食がおいしくなった」「旬の食材や地域の食材を知ることができた」などと掲載している。基地誘致の暁には豊かな生活が待っていると言わんばかりだ。

賛成派・杉為昭 西之表市議会議員
「(自衛隊が落とす金は魅力ですか?)そりゃ魅力ですよ。どこの自治体もそうじゃないですか。国防のために落とされた“棚からぼたもち”。(仮に基地の話がなかったらどうですか?)厳しいですよね。人口流出に歯止めがかからないと思います」
反対派は国際情勢が反対運動の妨げになってしまったと語る。

反対派・長野広美 西之表市議会議員
「ウクライナ・台湾有事・北朝鮮の問題で、『基地反対』『基地いらない』と大変言いづらい雰囲気になってきている。住民の安全・安心が第一で、そのための国防。今の南西諸島の配備は島民を守らない」
防衛力強化と相まって、馬毛島への巨大基地建設は一挙に走り出した。建設関係の作業員が押し寄せ、ホテルはどこも満室だ。民宿が丸ごと借り上げられる現象も起きている。アパートの空き部屋も殆ど無い状態だ。
不動産屋「ご紹介できるものがない」
市内では未だに“基地反対”が燻ったままだ。

西之表市民「基地ができるのは反対。要塞ですよね。金を西之表市にもらえる代わりに、基地が大きくなっていく。子どもたちが、これから背負っていくことになる」
山下六男さんが船を出す準備をしていた。馬毛島に基地建設の作業員を運ぶのだ。
山下さん「(稼ぎになるんですか?)間違いはない。漁はあてにならないから」
港には建設作業員が集まっていた。運ぶだけで報酬は1隻およそ10万円。高額で確実な収入を求めて漁をやめる漁師も出始めた。
漁師「本当は反対したい。自分たちの漁場が潰れるから。アメリカが弱まった途端に、中国がのぼせる(進出してくる)から、国防は協力しないといけないという考え」
漁師「コロナの影響で魚は値段がしないし、漁に出ても燃料代がかさんで。良い稼ぎといったらおかしいけど、(この仕事は)間違いないから」
訓練で隣町に自衛隊が来ただけで、店の品物が飛ぶように売れた話が広がっていた。
基地建設は漁場を完全に破壊してしまうと訴えて、反対運動を続けている漁師がいる。西之表市で40年以上漁業を続ける濱田純男さん(67)。
濱田さん「FCLP(陸上空母艦載機離着陸訓練)の音があったら、魚がものすごく敏感になる。地元の人に相談しないで(建設を)やるというのは、防衛省はやり過ぎですよ、むちゃくちゃですよ」
反対派の濱田さんには、馬毛島への作業員運搬には声がかからない。

濱田さん「誰が潤うんですか、防衛省の湯水のようなお金が流れてきて、みんなそれに全部釣られて」