■“P3C対潜哨戒機”から“P1対潜哨戒機”に急ピッチで入れ替え


(対潜哨戒機からの声)「目標(中国艦隊)は170度、20ノットで南南東へ向け航行中」

中国艦隊を“目標”と呼び追跡する対潜哨戒機。東シナ海では今や日常的になっている。日本に侵入する潜水艦や不審船の情報を収集して“専守防衛”の一翼を担って来た。

哨戒機部隊の最前線、神奈川県の海上自衛隊 厚木基地。厳しさを増す安全保障環境の中で“有事”への対応が現実味を帯びている。


以前は尾翼に所属部隊が一目でわかるスコードロンマークがあった。しかし現在は完全に消され、機体は空に溶け込む水色、迷彩色に変わった。

プロペラ機“P3C対潜哨戒機”はジェットエンジンの“P1対潜哨戒機”へ急ピッチで入れ替えられている。速度や航続距離が1.3倍以上に高まり東シナ海まで活動範囲が広がった。

最新鋭P1対潜哨戒機の搭乗員11名がミーティングを行う。全国各地の部隊から詳細な気象情報が上がってくる。離陸に備えて入念な点検が行われる。自衛隊が使用する燃料にも、ロシアのウクライナ侵攻の影響が出ていた。

整備担当「燃料の高騰によってフライトできる時間が変わってくると思うが、我々の任務に必要なものと思う」


赤外線センサーは潜水艦の熱を捉える。

高田淳好飛行隊長「夜間でも識別ができる。一般的に波と潜水艦の温度の違いがある」

磁気探知装置は、潜水艦が発生させる磁気の乱れをキャッチする。

高田飛行隊長「潜水艦は鉄の塊なので地球の磁場を乱すことがある。その磁場を探知して潜水艦の位置をピンポイントで探る」

この日は相模湾の監視活動に向かう。巡航速度は時速800キロ。高度1万メートルから60メートルに急降下、海面すれすれを飛ぶ。

搭乗員「(どこの国の船かわかるか)おおよそだが、わかる。船の特徴を覚えて不審船かどうか調べます」


機内には126本の“ソノブイ”(音響探知機)を搭載している。海中に発射して船舶や潜水艦のスクリュー音などを収集、分析する。連続20本発射可能だ。


対潜哨戒機は度々日本の安全保障上の重大局面に立ち会ってきた。その一つが北朝鮮の工作船事件だ。2001年東シナ海で朝鮮労働党の電波が捉えられた。発信源は工作船だった。ソノブイは工作船のスクリュー2枚が故障し、本来の時速65キロが出せない状態である事など詳細な情報をつかんだ。船のスクリューにはその船しか持ち得ない“音紋”がある。人間の“指紋”と同じだ。

対潜哨戒機は過去にこの工作船の“音紋”を極秘に収集、蓄積していたのだ。
熾烈な情報戦の一端が窺える。

飛行は10時間に及ぶこともある。隊員は持ち場で食事をとる。レーダーと音響、画面には周辺の詳細な船舶の位置と、水深が鮮明に浮かび上がっている。

高田飛行隊長「(細かい地図があるのは)海底の地形・水流をきちんと把握しないと、潜水艦の音を捉えることは難しいから」

最近女性の搭乗員が増えている。彼女は電子機器の整備を担当する。


機上電子整備員「最初は女性ひとりで不安はあった。(トイレは)鍵もついているし、きれいなので、すごく利便性は高くていい」


大量の海水を浴びる対潜哨戒機は、着陸後直ちに洗浄される。使用する水は年間1000トンに上る。

専守防衛の典型とも言われる対潜哨戒機は充分、抑止力になってきたと、部隊のトップは語る。 


小俣泰二郎司令「通常通らない航路を通っているとか、周りと同じ動きをしない船がいるとか、毎日、警戒・監視活動を行っておりますので、変化を見逃さない。『P1対潜哨戒機が飛んでいる』と相手が感じれば抑止力になる」


政府は防衛予算をGDP・国内総生産の2%に倍増する事を決定した。5年間で43兆円。財源をどうするのか。国民への負担が大きくなるのは間違いない。