湯崎英彦知事(インタビュー当時)
「映像制作などと異なり、『あいさつ』は形式が決まっていて、持ち時間も決まっている。もう言葉でしか思いが伝わらない。その中でどう印象的に耳に残る、心に残るものを作るかということになると、やはり、言葉選びが大切にになる」

湯崎知事が「原爆の日」を知事として初めて迎えたのは2010年でした。

「あいさつ」では、父親で広島大学の社会学者・湯崎稔さんの言葉を引用し、核兵器の恐ろしさを伝えました。

「核兵器は”人間的生の全体的破壊”をもたらすのです。これは広島大学の研究者として被爆の社会学的実態を調査していた私の父が爆心復元のために何十何百という被爆者を訪れて話を聞いた結果実感することとなった核兵器による破壊の現実です」(2010年「あいさつ」)

2009年、アメリカのオバマ大統領が「核なき世界の追求」を訴えたプラハ演説。世界に核廃絶の機運が高まったかに思えました。しかしオバマ大統領は同時に「核兵器が存在する限り、アメリカは敵を抑止するために安全・確実・効果的な核戦力を維持する」と語り、その後アメリカは臨界前核実験を実施しました。

湯崎知事
「当初は、どちらかというと核兵器の「非人道性」という点に焦点を当てた『あいさつ』を作っていた。皆さんにそれを聞いてもらって、『やはり原爆はいけない』と思ってもらいたかったが、『あいさつ』が単に式典のルーティーンになってはいけないと思った」

平和祈念式典は被爆地・広島の思いを世界に届ける大切な機会。湯崎知事の『あいさつ』は核抑止論への批判を強めていきました。

「広島は、『理論』にすぎない『核兵器による安全保障』という神話を、『核兵器による地獄』という『現実』に転換する場所であります」(2015年「あいさつ」)

湯崎知事
「一歩でも、核兵器廃絶に向けた変化を生もうと思った時に、『核抑止』に焦点を当てて、そこに集中をしてメッセージとして出していく」

2016年のオバマ大統領による広島訪問、2022年のロシアによるウクライナ侵攻と“核による脅し”」。世界を取り巻く環境が変化するなかでも、「あいさつ」は核抑止論への抵抗を続けました。

「私たちはオバマ大統領が指摘したように、恐怖の論理、すなわち神話にすぎない核抑止論から脱却し、「核兵器のない平和」というあるべき現実に転回しなければなりません」(2017年「あいさつ」)

「そのような核抑止論者に私は問いたい。いまこのときも命を失っている無辜のウクライナの市民の責任をあなたはとれるのですか」(2023年あいさつ)