■歪んだ形の経済調整「ステルス値上げ」と「ステルス賃上げ」

――名目の価格が上がらない、名目の賃金が上がらないということが国内経済に悪い影響を及ぼしているという考えか。
東京大学 渡辺努教授:
今価格と賃金が動かないわけです。しかし、それでもやはり経済は回っていかなければいけませんので、何とかして価格と賃金を動かそうという力みたいなものが経済の中で働いてくるわけです。では、どうすれば価格は動かさずにそれっぽいことができるかと言うと、値段について言うと、ステルス値上げ。表面価格は動かせないのが社会の当たり前の中で、材料費などが上がってくるという時に企業は商品のサイズを小さくする。私たちは質を悪化させると言いますが、サイズを小さくするのと質を悪くするのは同じことです。それによってコストを抑えて元々の表面価格のままでもなんとか経営が成り立つようにする。こういうことを裏側でやることが始まってしまっているのです。本来は価格で調整されるべきものが、品質で調整されるという歪んだ形での経済の調整が始まっています。
――「ステルス賃上げ」というのは何か。
東京大学 渡辺努教授:
商品については品質を落とすという話をしましたが、労働供給している労働者が実体的にコストを落とす方法としては、言葉は悪いですがサボるしかないわけです。
――どうせ賃上げはないのだから一生懸命働いたって一緒だというような気持ちになってしまう。
東京大学 渡辺努教授:
働いている人も働いていない人も同じ賃金ということなれば、人情として手を抜こうかなということは出てくると思います。そうすると労働生産性の上昇に悪い影響が出てきていると。