■政府への提言。「価格抑制」ではなく「賃金上昇」に手当てを

――「賃金解凍スパイラル」に持っていくには何をすればいいのか。

東京大学 渡辺努教授:
当たり前を切り替えるのは誰かが旗振りをしてくれなければいけないので、政府にその役割をお願いしたいです。最初のお願いしたいポイントは、今大変な税金を使ってプライスコントロール、例えばガソリンや小麦などに補助金を突っ込むことによって価格を抑えるということをやっていますが、私はやめるべきだと思います。

――もうすでに電気、ガスも入れると約12兆円の補助金を出している。総合経済対策で「賃上げを促す生産向上など支援」は7800億円しかない。

東京大学 渡辺努教授:
価格を抑えるのではなく、賃金を上げるという方向に持っていくべきだと思います。今でもやっていますが、賃上げをする企業に税制面で優遇するというのは非常にいいと思いますが、中小企業に対してもう少し上手な優遇をやる必要があるでしょう。

――物価高の影響を受ける世帯には所得税減税をやった方がいいし、政府と日銀の共同声明にも物価の目標だけではなく賃金の目標を入れるということも考えた方がいいということか。

東京大学 渡辺努教授:

はい。2013年に共同声明が出ていますが、その中では物価2%だけがうたわれていて、現状はそこはクリアしつつあります。賃金が最後のハードルになっているので、そこを政府と日銀がもう1回共同声明を出し直せば、社会に大きなインパクトを持ちますので、当たり前が崩れていくと思います。

――10年に及ぶ異次元緩和、アベノミクスという歴史に残る異例の政策をとっても物価が上がらなかった。それが今、目の前で3%も上がっている。このチャンスを 生かした方がいいのか。

東京大学 渡辺努教授:
今の物価上昇は海外から来ているわけですが、ウイルスがもたらしてくれたラッキーな部分が日本に来ていると思った方がいいと思います。この機会を利用して今まで人間の力、政府の力ではできなかった物価と賃金の好循環を作るということを戦略的に考えた方がいいのではないかと思います。

10年実現できなかった普通の経済に戻れるかどうか、今まさに瀬戸際に立っている。その意味では、今回の春闘は非常に大事だ。

(BS-TBS『Bizスクエア』 12月10日放送より)