イーロン・マスク氏など「テック右派」の特徴
新右翼の中でも特に注目されるのが「テック右派」と呼ばれる潮流です。テスラCEOのイーロン・マスク氏などが代表例として挙げられます。
柳澤田実さんによれば、「テック右派の特徴は、民主党の規制が多すぎてイノベーションの妨げになっているという考えで一致している点です。特にAIなどの技術革新を加速させるべきだという『加速主義』の思想がベースにあります」
ピーター・ティール
テック右派の代表的人物としてPayPalの共同創業者であるピーター・ティールが挙げられます。
「ティールはテックビジネスのリーダーであるとともに、学生時代から多様性といったリベラルの価値観に対してアンチの立場を取ってきた人物です」と井上さん。
柳澤さんはティールのキリスト教理解について「彼はイノベーションとキリスト教は相性がいいと考えています。聖書における『旧約』、『新約』という概念は、神との契約が古くなったから新しい契約が必要とされたという発想を含んでおり、これはキリスト教以前にはなかったイノベーション的発想だと言っている」と説明します。
ティールは自身がゲイでありながら、性的マイノリティの権利を制限する方向性を示している共和党支持を表明しており、「アイデンティティポリティクス(人種やジェンダーなどアイデンティティを基盤とした政治活動)が全面に出てしまったことでイノベーションが停滞していることへの不満がある」と柳澤さんは分析します。
「ティールにとって善とは何よりもイノベーションであり、それを抑圧するものは全て悪となります。多様性を本当に担保するためには、特定の思想をドグマ(教義)的に掲げるべきではないという問題意識があります」
新右翼思想の今後と社会への影響
新右翼の台頭はアメリカ政治にどのような影響をもたらすのでしょうか-
井上さんは「彼らは単なる政策変更ではなく、国家のあり方を根本的に変えようとする体制変革(レジームチェンジ)を模索している可能性がある」と指摘します。
ただし、新右翼内部でも一枚岩ではなく、テック右派と草の根のトランプ支持者の間には対立も存在します。
「新しいエリートの台頭を受け入れる層がいる一方で、テック右派のようなエリート主義に嫌悪感を示すポピュリスト派もいます」と井上さん。
アメリカの政治的分断は深まる一方ですが、草の根レベルでは変化の兆しもあります。柳澤さんは教会コミュニティの調査から次のような希望を見出しています。
「中西部と南部の保守的な教会で、特にZ世代やミレニアル世代が主導する新しい教会コミュニティを調査してきましたが、そこでは驚くほど人種的にインクルーシブな共同体が作られています。政治レベルでのMAGAや福音派の強硬なイメージとは別に、草の根レベルでは若い世代による信仰復興のような現象が起きており、ある教会では2日間で2000人が洗礼を受けるといったこともありました」
トランプ大統領の再登板を機に注目される「新右翼」の思想。それは、リベラルと旧来の保守双方に反旗を翻し、アメリカのあり方を根本から問い直す大きな地殻変動です。伝統的価値観への回帰とテクノロジーによる革新という、一見矛盾する要素が複雑に絡み合い、新たな政治勢力を形成しています。この現象を理解することは、アメリカだけでなく、世界中で起きている政治的変動の本質を見通す上で不可欠な視点となるでしょう
(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年10月27日放送『トランプ大統領が6年ぶりに来日。第二次政権、その背景にある新右翼の思想とは?』より)














