年間22万件超の虐待疑い通報
藤本:児童虐待について、政府が統計を取り始めて30年以上が経過しています。2000年に児童虐待防止法が成立・施行されてから社会的機運が一気に高まって、「虐待かも?」となったらすぐ行政に連絡する、今はそんな状態です。統計は1回も減少することなく、直近では全国の虐待相談対応件数が年間22万件くらいになっています。行政が「虐待かもしれない」と対応しています。
神戸:実際はもっと多いと思われる…。
藤本:かもしれません。単純に365日で割っても、1日600件以上。2~3分に1件のペースで、「ひょっとしたら虐待かもしれない」という情報が寄せられています。虐待はやはり、家庭のいろいろな事情によるものが大きいんですが、一方で共通する背景として、やはり「孤立」なんですよね。
神戸:1人で子育てをしているという意味ですか。
藤本:はい、社会的孤立ですね。特に福岡市は典型的な事例なのですが、結婚や就職、転勤を機に移り住んで来る方がたくさんいらっしゃるので、身近に知り合いがいないまま、子育てをすることになるわけです。子育てって、いいこともたくさんあるのですが、困る瞬間も誰にでもありますよね。助けが欲しい時に、核家族だと頼る人が誰もいない状態になってしまうのです。子育て自体の困りごとが、家族の中にとどまってしまう現象が起きるんです。
神戸:なるほど。
藤本:身近に頼れる人がいれば困りごとは小さいうちに解消できるのですが、なかなかそうならない方がいて、その1つの現象として児童虐待があるのかな、と思うのです。
神戸:「子どもの村」では里親事業のほかに、ショートステイ事業といって、一時的にちょっと困ったお母さんがお子さんを預ける、という取り組みもしてきましたね。
藤本:「子どもの村」はもともと、「親元を離れて暮らすお子さんを家庭的環境で育てよう」というのが取り組みの趣旨だったのですが、やはり親子が離れ離れにならない方がいいので、孤立を防ぐためにどういった取り組みができるのか。こちらで相談を受けたり、逆に地域に出向いて相談を受けたり、育児疲れを背景として「ちょっと子どもを預けたい」という方の受け入れ先になってみたり。あとは、社会的孤立が最も典型的に出やすいヤングケアラーの相談窓口にもなっています。
神戸:「村」では里親活動だけじゃなく、専門の知識を持ったスタッフがそういう事業に取り組んできたわけですよね。
藤本:はい。そういった孤立現象を、どうやったら解消できるのかということで、新拠点建設の着想に至ったということなんです。
神戸:もっと人が集まりやすい街中に出て、取り組みをしようということですね。