「アイドルと同じくらい人気?」日韓つなぐ“懐メロ”

韓国のポップカルチャーに詳しい一橋大学大学院の権容奭(クォン・ヨンソク)准教授に、日韓をつなぐ“懐メロ”の役割について話を聞きました。

一橋大学大学院の権容奭准教授

Q.そもそもトロットとは何ですか?

一橋大学大学院 権容奭准教授
植民地時代、近代的なポピュラーミュージックのなかった韓国に日本から演歌が入ってきて、トロットという韓国歌謡の1つのジャンルができました。元々は日本の演歌と同じような位置づけだったのが、2000年代に入ってから進化したんです。“Kトロット”と言われるアップテンポの曲やダンスを混ぜたもの、70~80年代の懐メロをトロット歌手がカバーしてすごくヒットしたりして、“韓国歌謡をトロット歌手が歌う”というジャンルが広がりました。

Q.韓国でトロットが人気になったのはなぜですか?

権容奭准教授
最近のK-POPはアイドルやアップテンポなダンスミュージック中心になってきてしまっている。かつてはバラードもメジャーなジャンルだったんですけど、最近ではもうあまり人気がない。メロディがあって歌詞があってそれを人が伝えて…みたいな歌謡曲が好きな人たちからすると、物足りないというか、何か居場所がないような。そこでトロット歌手たちがそういう曲を歌うことによって、トロットが人気になりました。イム・ヨンウンさんとかはビジュアルもすごくかっこよくて、韓国ではBTS級に人気です。

Q.韓国では、歴代政権による反日政策で日本の音楽や漫画などの大衆文化は厳しく規制され、レコードやCDの輸入は禁止されていました。そのような中、日本の80年代の楽曲である「ギンギラギンにさりげなく」が今バズったのはなぜ?

権容奭准教授
韓国の今の40~60代は日本の80年代の曲をアンダーグラウンドで知っている人が結構いたんです。当時、日本の曲をおおっぴらに聞くことはできなかったけども、若者が遊ぶ場、たとえばローラースケート場とかでは、韓国歌謡じゃなくてJ-POPがトレンドだということで。「ギンギラギンにさりげなく」がなぜ人気かっていうと、そのときそこで流れていた最高のディスコソングだったからなんです。上の世代からするとこれまで禁止されていたものが解禁になって「いい時代になったな」っていう喜びがあるし、若い世代からすると、今のK-POP中心の音楽に今ひとつ感動できない人たちにとっては逆に80年代の曲の方が人間的だみたいなところはあると思います。

Q.K-POPアイドルは、いまや韓国の“一大産業”とも言えます。CDやグッズの売上はもちろん、観光やファッションまで経済効果は拡大中です。こうした巨大市場と比べたとき、トロットはどのような独自のソフトパワーを持っているのでしょうか?

権容奭准教授
NewJeansのハニさんが日本で「青い珊瑚礁」を歌ったときに興味深かったのが、日本で今までK-POPや韓国文化にあまり興味のなかった人たちが反応したことです。自分の青春を取り戻したかのようなウキウキを感じた人が多かったと思うんです。日本と韓国の文化交流で今まで不毛地帯だった人たちが、トロットを通して出会うきっかけになりうると思います。アイドル市場だと、日本と韓国は正直ライバル関係みたいになってしまう。それがシティポップ(70~80年代に日本で流行した都会的なポップス)なら、競合ではなく共同で作業できるしコラボできる。そういうジャンルであるという点からも意味があるかなと思います。