■「現在の台湾生まれ台湾育ちの若者は、自分自身が中国人だとは思っていない」

中国で国民の不満が爆発している中、台湾でも大きな動きが起きた。統一地方選挙で与党が敗北。中国と距離をとる蔡英文総統が与党・民進党の代表の座を下りた。

台湾の市民は中国と仲良くする路線を選んだとも取れるが、今回の選挙自体は対中関係に大きく関係するものではないという。

笹川平和財団 小原凡司 上席研究員
「24年にある総統選では、対中政策が争点になると思いますが、地方選挙なのでやはり今の自分たちの生活がいかに良くなるかを考える。台湾でもコロナ政策には不満があると聞きます。経済状況は好転しない。まぁ長期政権になれば政権への不満は出てくる。日本でもそうですが外交と安全保障は票にならない…」

中国にとっても今の台湾の人は自分たちを“台湾人”だと思っているので民進党が勝とうが国民党が勝とうがあまり影響はないというのは宮本雄二氏だ。

元駐中国大使 宮本雄二氏
「中国にとって一番困るのは民進党ですから、そこが後退するのはプラスですが(中略)状況分かってる人にとってはほどほどの歓迎ってところでしょうか」

しかし、水面下で中国は台湾の選挙に影響力を持とうと画策しているようだ。台湾にいる専門家によれば、中国の思想に近い若い議員に資金提供を行ったり、民進党の支持層へである農家や漁師が嫌がる制裁をしてたり、さらに中国と関係を持った時の優遇措置を設けたりするなどの“工作”をしているという。

台湾 国防安全研究院 王彦麟 博士
「中国は若い有権者の票を獲得しようとしています。(中略)中国は共産党の考えに近い若い議員を支援し、彼らを通じて中国と台湾の親密さや台湾は中国に返還されるしかないといった意見を宣伝します。重要なのは内容ではなく若い議員が言うことです」

博士によれば、現在の台湾生まれ台湾育ちの若者は中国と深い関係を持っておらず自分自身が中国人だとは思っていない。逆に言えば中国に対する偏見もない。隣の外国くらいに思っているのだ。

台湾 国防安全研究院 王彦麟 博士
「現在の台湾社会で若者はチャンスを得るのが難しくなっています。中国と近い立場になることで活躍できる場を得られると考えます。中国はその点を巧妙に利用しようとしています」

事実、台湾の若者の就職状況は10年近く良くなっていない。中国と関係を深めれば働くチャンスも増えると考えているようだ。

台湾 国防安全研究院 王彦麟 博士
「例えば中国では多くの省が産業パークを作っています。台湾の若者がそこで仕事をすれば様々な優遇措置を受けられます。税金の優遇、低金利の融資、安い家賃…」
こうして若い世代の親中国化を狙っているのだ。

中国が台湾の若者にターゲットを絞るようになったきっかけがあるという。

法政大学 福田円 教授
「2014年のひまわり学生運動というのがありまして、これに中国共産党はショックを受けて、これからは台湾の若者に中華人民共和国への愛国心を持たせようと考えた」

ひまわり学生運動とは、中国と台湾の不透明な貿易協定に反発した学生たちが立法院に立てこもるなどした抗議運動だ。反中国の蔡英文政権が生まれる原動力にもなった。かくして中国は様々なルートで台湾の若者を取り込もうと画策しているというが…。

元駐中国大使 宮本雄二氏
「いろいろやってますが、全部利益誘導ですよね。これでなびく人は限界があると思います。台湾アイデンティティが高まる中でこういうことで全体の世論を変えるとこまで行くでしょうか。それより中国全体の経済収入を上げて台湾に肩を並べて、中国の相対的な魅力をあげることしかないと思います。(中略)中国の友人と話してたら『2035年に台湾抜きたいんだよ』って言うんです。経済で抜ければ武力に頼らなくても台湾を引き寄せられると…」

台湾の人々も“今のライフスタイルを続けられるなら、一つの中国でもいいんじゃないか”と考えるかもしれない。武力行使は最後の手段であっていかに平和的に台湾を取り込むかを中国は考えていると宮本氏は話す。