ネパールで50人以上の死者を出した大規模な反政府デモは、わずか2日でオリ政権を崩壊に追い込んだ。デモを主導したいわゆる「Z世代」の若者たちは貧困や失業に苦しみ、政治の腐敗や汚職などへの怒りが渦巻いていた。
南アジアでは近年、スリランカ、バングラデシュ、そしてネパールと、相次いで政変が起きている。
政治腐敗や汚職に反発「ネポキッズ」批判も拡散
首都カトマンズの通りを大勢の市民が埋め尽くしたのは9月8日。抗議デモの主体は「Z世代」の若者たちだ。デモ隊は警察が設置したバリケードを突破し、国会議事堂などがある制限区域へとなだれ込んだ。筆者は昨年10月にカトマンズを取材で訪れたが、その時とはまるで異なる光景だった。
背景にあるのは、成長産業に乏しいネパールで深刻化する「若年層の雇用不安」だ。世界銀行によると、若年層(14歳~25歳)の失業率は20%超。毎年、数十万人の出稼ぎ労働者が日本など海外に渡っていて、カトマンズのパスポートセンターには連日、若者を中心に長蛇の列ができている。出稼ぎ労働者からの海外送金に依存する状況が、国内経済の停滞を招いてきたとも指摘されている。
一方で、長年の政治腐敗や汚職、富を独占する特権層の優雅な生活に、多くの人たちが不満を募らせてきた。現地メディアによると、SNS上では、エリート層の子女を揶揄する「Nepo Kids(ネポキッズ)」という言葉が流行。縁故主義や身内びいきを意味する「Nepotism(ネポティズム)」をもじった造語だ。ブランド品や高級車を誇示する写真や動画が暴露され、怒りの火種となった。
こうしたなかで、政府が9月4日にSNS禁止措置を出したことが、若者たちの怒りに油を注ぎ、大規模な抗議デモへと発展。
さらに、治安部隊が実弾を発砲するなどの強硬手段に出たことが事態を決定的に悪化させ、政権の崩壊につながったとみられている。
ネパール軍が治安維持に乗り出したことで混乱は収束に向かっている。政治体制の刷新に向け、デモを主導した若者のグループは軍幹部らとの協議を重ね、9月12日に元最高裁長官のスシラ・カルキ氏が暫定首相に就任した。新政権に移行するための総選挙が6か月以内に行われる見通しで、国政の立て直しを図ることになる。