67年前、生まれた直後に別の赤ちゃんと取り違えられた男性がいます。生みの親を捜す調査にあわせ、男性は調査対象者に宛て手紙をしたためました。「私は何者なのか」。切実な思いが綴られています。

江蔵智さん(67)。1958年4月、東京・墨田区にあった「都立墨田産院」で生まれた直後、別の赤ちゃんと取り違えられました。発覚したのは今からおよそ20年前、46歳の時でした。

「(DNA型鑑定で)私の身体には両親の血が一滴も流れていないと報告を受けたのですが、頭の中は真っ白ですよね。真実を知りたい。父母のヒストリーを聞きたい。そこに尽きますね」

産院を運営していた東京都に賠償を求めた裁判では取り違えの事実が認められましたが、都は調査への協力を拒否。そのため、江蔵さんは、都に生みの親を捜すよう求める訴えを起こし、東京地裁は今年4月、都に調査を命じる判決を言い渡しました。

「一日一日と早く両親の情報(を得る)会えるという期待が膨らむので、東京都には(調査方法を)速やかにまとめていただきたいです」

都は墨田区から戸籍情報の提供を受け、同じ1958年4月に出生届が出された男性が少なくとも113人いると割り出しました。

先週、この113人とその親のうち住所が判明した人に調査への協力を依頼する文書の発送が始まりましたが。

「まあいろいろ考えますよね。調査をしたけれども、相手の方が名乗り出ることを拒んでいますとか。相手の方がいるわけですから」

調査対象者にも今の人生があり、前向きな返事が約束されているわけではありません。

江蔵さんは「少しでも自分の気持ちを伝えたい」と、都の送る文書に自筆の手紙を同封することにしました。

そこには、切実な思いが…

「自分の本当の名前は何なのか、誕生日は本当はいつ祝えばいいのか、何一つわからないことに耐え難い思いを抱いて、20年以上。私は誰から生まれた何者なのかを知りたいだけなのです」

もう一つ、江蔵さんには伝えたい事があります。

育ての母・チヨ子さんにも、本当は、自分とは別に“実の子”がいるのです。

「母は『お腹を痛めて生んだ子が、今どうなっているかを見届けたい。会えるものなら遠くから見るだけでも見たい』と言っています。真実の子を一目でも見せてあげたい」

現在、チヨ子さんは92歳。認知症が進み、最近は、体調もおもわしくありません。

「母がいるからこそ『1日でも早く』という言葉が出ます。僕一人だったらそこまで早く早くと急かせないと思いますけど」

取り違えから67年、発覚から20年。江蔵さんは。

「手紙を受け取った相手の方に私の気持ちをわかっていただいて協力していただければ幸いです。ただそれを願うだけしかできませんので」

待ちわびた一報は届くのでしょうか。