急展開・・・決め手は「一枚のレシート」

粂原は新井の株取引を幅広く調べていくなかで、前にも触れた通り、新井の親族が代表を務める輸入品販売会社「ヴォーロ」の取引に注目していた。
1998年夏頃、同社の帳簿や伝票等などの「任意提出」を求めたところ、当初は親族が対応する予定だった。しかし直後に、新井本人から粂原に電話が入る。

「親族では会社(ヴォーロ)のことは分からないので、私が対応します」

新井はそう言って、自ら帳簿類を引き取る形で「任意提出」してきた。

それから数か月後、捜査は急展開を迎える。特命班が新井資金の行方をたどった結果、1997年9月ごろになって「西田名義」の口座に資金が流れていることが判明したのだ。
ある日のことだった。数か月前に「ヴォーロ」のブツ読みを担当していた副検事が、粂原の執務室のドアをノックして現れた。手にしていたのは、領収書綴りと一枚のレシートだった。

「検事、もしかしてこれですか」

副検事が粂原に差し出したのは、衆議院第一議員会館の地下にある事務用品店「竹山商店」が発行した、「300円」の「印鑑代のレシート」だった。その余白には「西田印鑑代」とのメモが記されていた。
それはすなわち、新井の親族の会社「ヴォーロ」が、議員会館内の店で「西田」という苗字の印鑑を購入していたことを示していたーー

実際の印鑑そのものは見つからなかった。だが、購入先が新井の事務所が入る議員会館地下の「竹山商店」であったこと、さらにそのレシートが「ヴォーロ」の領収書綴りに紛れ込んで保管されていた事実は、新井と「西田名義」の借名口座を結びつける強力な物証となった。

もちろん、新井自身が「ヴォーロ」の帳簿や伝票を検察庁に任意提出する際、このレシートの存在に気づいていなかったのだろう。皮肉なことに、その見落としが決定打となったのである。  

親族が代表を務めていた輸入品販売会社「ヴォーロ」(東京・銀座)