今年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻。9か月がたった今も、終わりは見えません。遠く離れた山口県で、今、ウクライナ出身の女性ダンサーがサーカスに出演しています。
県内に母を呼び寄せ、久しぶりの団らんに幸せを感じています。しかし、夫や父親は今も、ウクライナに残っています。不安を抱えながら、平和が戻る日を祈り続けています。
華やかな踊りと明るい笑顔。サーカスの会場を盛り上げます。
ウクライナ出身のダンサー・イリナさん。12月5日まで、周南市で開かれているワールド・ドリームサーカスに出演しています。
笑顔の裏には、大きな不安を抱えています。
イリナさんの故郷・ウクライナでは、今年2月、ロシアによる軍事侵攻が始まりました。9か月がたった今も戦いの終わりは見えません。武力によって、日常やまちの景色が今も奪われています。
11月9日、およそ8000キロ離れた異国の地で、イリナさんに1つ、日常が戻ってきました。1歳の息子、マキシムくんと一緒に待っていたのは…。
山口宇部空港で、母のラナさんを迎えました。
イリナさんは、ロシアによる軍事侵攻が始まる前にサーカスに出演するため、マキシムくんを連れて日本にやってきていました。ラナさんとは、それ以来、およそ1年ぶりの再会です。

イリナさん
「母のラナさんはこれから一緒に生活できることをうれしく思っている。サーカスからは私たちに、住居や食事などすべてのことを与えてくれ、息子のマキシムくんとも一緒に過ごせるし、私は仕事もできる」
ラナさん
「日本の人は優しくて友好的で、とても感謝している」
日本での3世代での生活はサーカステントの横にある仮設住宅で始まりました。公演の時間以外は、一緒に過ごすことができます。イリナさんがステージに立つ間。ラナさんとマキシムくんはいつも、客席から見守っています。
家族の存在は、イリナさんの大きな支えとなっています。
イリナさん
「ラナさんが前にステージを見たのは私がとても小さいときだったので、私はとてもうれしい。そして、ラナさんはマキシムくんと一緒に見てくれるのもうれしい。わたしにとって心が温まるし癒やしになっている」
1時間あまりの公演が終わると、家族の時間。やんちゃ盛りのマキシムくんは、遊びに夢中です。イリナさんの公演は1日2~3回。ハードではありますが、無邪気な息子の姿が与えてくれる癒やしをエネルギーに変えています。
1日の公演を終えて向かったのは、2キロほど離れた公園。ほぼ毎日通うというお気に入りの場所です。日本で送る、幸せな日々。公園で遊ぶほかの家族と変わりなく見えます。しかし、イリナさんには拭うことのできない心配ごとがあります。
イリナさん
「毎日、私が心配しているのは、家族はウクライナにいたままのこと。お父さんや旦那は戦争が終わるまで、国の外に出ることができない」
ウクライナでは、戦況が厳しくなった場合には、20歳以上の男性は軍隊に招集される可能性があるとされています。イリナさんの夫と父親は、今も国に残っています。
イリナさん・ラナさん
「戦争が落ち着いて平和になってほしい」
イリナさんとラナさんは、スマートフォンのメッセージなどで祖国にいる家族の無事を確認することが日課になっているといいます。今の日本では、想像できない現実です。
イリナさん
「ウクライナでは、ロシア軍によって建物が壊されていて、ほかにも美しい景色も奪われている。ウクライナだけではなく、世界中で平和になることを願っている。戦争は本当に恐怖を感じさせるものだから。親戚や友達は毎日のように危険にさらされていて恐怖を感じている」

終わりが見えない戦争。まちを破壊し、家族を引き裂き…戦争の恐ろしさを痛いほど感じました。

遠く離れた山口県から平和を祈り続けています。