■「終身雇用ありがとう」と言う人がいっぱい 「日本は保守的な人がメイン」
ーー日本企業は未だに終身雇用が前提ですよね。新野さん自身が退職代行サービスに携わる中で、終身雇用に対する若者の意識の変化をどのように感じていますか?
若者という言葉を先ほどから使っていますが、若者の中でも「終身雇用がいい」という人はたくさんいます。
はっきり言って、日本は保守的な人がメインなんですよ。当然、僕の周りにも「終身雇用ありがとう」と言う人がいっぱいます。「サラリーマン最高」「終身雇用万歳!」と言ってる友達だっていっぱいいますから。
ーー私は新卒で入社して今8年目になりましたが、「終身雇用万歳」とまでは思っていないです。それに、私の周辺にも転職を経験した人はどんどん増えているので。
なるほどね。ちょうど過渡期の世代でもあるのかな。
逆に聞きたいんですけど、終身雇用について「万歳」ではないんですね。どういうイメージなんですか。
ーーやはり先行きは不透明ですし、今後日本経済がどうなるのかわからない中で、「終身雇用万歳」で、ずっと甘えていこうという考えには至らないです。でも、結局長いものに巻かれて生きていく、というのが私のような気がしています。辞めるということにも、ある種の勇気が必要ですよね。
なるほどね。すごいリアルですね。
保守的な人が8割ですよ。はっきり言って。そうじゃないと、会社は回らないですからね。肌感覚なんですけど、10年前は保守的9割で、1割がちょっと攻めているみたいな。自分みたいに辞めたり、起業したりしている人を攻めている人だとしたら、9対1だったのが、今ようやく8対2ぐらいなのかな。
■取材を終えて
取材後の雑談で新野さんは、起業当初のお話をしてくださいました。当時は、「今すぐ会社を辞めた方がいい」などと、周囲の人に転職や起業を勧めていたそうです。その一方で、「会社を辞めるって、めちゃくちゃ不安なんですよね」と当時の感情を吐露されてもいました。未知の世界に一歩踏み出す勇気は、並大抵の覚悟で湧き出るものではありません。その当時、新野さんが他者にかけた言葉は、不安を抱く自身への鼓舞でもあり、有言実行に繋ごうとする高い志だったのだろうと思います。
今年、社会人8年目で転職経験ゼロの私は、学生時代、体育会馬術部に所属していました。今回のインタビューをきっかけに当時を振り返ると、確かに「辛い」と感じたこともありましたが、「続けることが大切」との意識が強かった私は、4年間部活を続ける選択をしました。「継続は力なり」に美徳を感じる「典型的な日本人」の私との価値観の違いを感じる一方で、新野さんから「起業当初はめちゃめちゃ尖っていたんですよ。だから、保守的な人に対してバチバチに言ってたんですけど、あれから10年経って保守的な人の気持ちがわかるようになったんですよね」と伺い、少し親近感を抱きました。
若い世代の働き方への意識が変化している一方で、「石の上にも三年」や「立つ鳥跡を濁さず」などの考え方は、まだまだ日本社会に根強く残っている印象があります。人材の流動化を阻む文化や慣習が残る中で、若者の「辞める勇気」を後押しする新野さんのような存在が、日本社会の生産性を高めていくカギになるのかもしれないと感じました。