11月19日、75年ぶりに新規開業予定の「次世代型路面電車」が宇都宮市の中心部で試運転中に脱線事故を起こした。先頭車両は歩道に乗り上げ、大きく破損した。時刻は午前0時半ごろで通行人はおらず、幸いけが人もいなかった。
この「次世代型路面電車」は「宇都宮LRT」と呼ばれ、来年8月の開業が見込まれている。
計画から30年という期間をかけて進めてきたのには理由がある。
地方都市が抱える大きな課題の解決が期待されるが、一体どんな路面電車なのだろうか。
■急カーブを曲がりきれず脱線 来年8月の開業予定は変わらず
11月21日、宇都宮市は事故について記者会見を開いた。事故は宇都宮LRTが宇都宮駅東口の停留所に向かっていた際、時速13キロで走行中に急なカーブを曲がりきれなかったため起きたという。緊急事態を想定して、通常の進行方向とは逆方向に車両を進めたときだった。11月22日午後、大学教授などの有識者らによる現場検証を行った。原因は複合的なものだとして調査を進めている。3両編成の車両2台が脱線したが、乗っていた作業員15人にけがはなかった。
佐藤栄一宇都宮市長は「ご迷惑とご心配をおかけした」と謝罪し、「原因の検証と再発防止の対策を検討する」とした。市は、来年8月の開業に影響はないとしている。

■期待高まる中での試運転
この試運転は11月17日から「宇都宮駅東口―平石」約4キロの区間で始まったもので、当初は順調に進んでいた。出発地の車両基地では、多くの鉄道ファンや近隣住民が試運転を見守った。時速5キロというゆっくりとしたスピードで車両は進み、多くの作業員が車両を取り囲みながら線路の状況を入念にチェック。試運転初日だったこの日は午後10時40分ごろに「宇都宮駅東口」に設置された真新しい停留場に無事到着した。集まった観衆からは大きな拍手が起こった。

■ノウハウも設備もない中で準備 運転士は全国各地で“特訓”
LRTの計画は約30年前に端を発する。交通渋滞の解消をはかるため、県や宇都宮市が出資して「新交通システム研究会」を設置した。
その後、工事や用地取得の遅れによる2度の延期を乗り越え、ようやく来年8月に開業が見込まれている。路面電車事業者の新規開業は、全国で75年ぶりだ。
開業までには運転士を育成する必要があるが、栃木県内には実際に運行している路面電車はない。そこでLRTの運転に必要な免許の取得や訓練のため、LRTの運転士たちは、2019年から広島県や富山県など、全国8つの路面電車事業者に出向して経験を積んでいる。「広島電鉄」で訓練を受けた運転士は、「営業までにもっと上達したい」と抱負を語った。

これまでにあわせて33人の運転士が出向し、11月4日には第1陣として19人の運転士が宇都宮に戻ってきた。
ただ実際に運転するのは“次世代型”の車両で、路線も新しい。今後、開業までにLRTの車両と線路を使ってさらなる訓練を行う予定だ。