悲惨な交通事故の被害を1件でも減らそうと取り組んでいる、高知県警の警察官に密着しました。交通に関わる期間が長かったからこそ感じる、交通事故の恐ろしさ。「一瞬で、一生背負う罪になる」と語る警察官が、伝え続けたいこととは。
10月26日、高知市の附属小学校で交通安全教室が開かれました。
(高知警察署 宮本誠二 警部補)
「自転車で行きよって人が行きよって邪魔になるかなと思ったときは、自転車から降りて待つようにしてください。それが事故の防止になります」
講義を行ったのは、高知警察署の宮本誠二(みやもと・せいじ)警部補(53)です。中学校進学を控え、自転車に乗る機会が増える5、6年生を対象に、改めて交通ルールや日常にひそむ事故の危険性について伝えました。

(高知警察署 宮本誠二 警部補)
「中学生、高校生になるにしたがって事故の件数も増えてきます。小学生のうちにちゃんとルールを身に着けて、基本を守って自転車の運転ができるように心がけてもらいたいと思います」
(小学6年生)
「自分はこれまでヘルメットとか気にしてなくてやってないことがあったので次から自転車に乗るときは気を付けていきたいと思いました」
「『止まれ』の標識とか見てなかった。自転車の点検もしてなかったのでこれからきちんとやりたい」
1988年に高知県警に採用された宮本さん。警察官を志したのは、白バイ隊や刑事ではなく、身近で頼れる駐在勤務の警察官への憧れからでした。

(高知警察署 宮本誠二 警部補)
「小さい時に近くに駐在所があって、そこに勤務する駐在のお巡りさんが朝のラジオ体操に毎日来てくれていて本当に筋肉もりもりで頼もしいお巡りさんがいたんです。受験するときに何になろうかなと思ったときこういう警察官になりたいなという…」

現在は、高知警察署の交通課で「交通規制」を担当。住民から要望があった場所や事故が起きてしまった場所に標識や横断歩道の設置などを行っています。
(高知警察署 宮本誠二 警部補)
「午後7時過ぎの事故で当時は雨が降っていてもう暗い状態になっていました」
今年7月。高知市栄田町で自転車と車が衝突する事故が起き、自転車に乗っていた80代の女性が死亡しました。
北向きに直進していた車と、東から西へ横断中の自転車が衝突した事故。痛ましい事故が二度と起きないよう、宮本さんは現在、道路の真ん中にあるポストコーンを、自転車が通り抜けることができないものに変えようとしています。

(高知警察署 宮本誠二 警部補)
「こういう事故の現場で見て、安全対策というのを考えて今後1件でも事故が減って、死亡交通事故何かが減ってくれたら仕事もやりがいがあるんじゃないかなと思います」
警察官になり、今年で34年目を迎えた宮本さん。その大半を交通分野で過ごす中、警察官としての使命を強く意識する事故がありました。

(高知警察署 宮本誠二 警部補)
「小さい女の子をはねて亡くなった事故があったんですけど、その運転手さんが罪の意識で最終的に自殺してしまったという事案があって。交通事故というものはわざと起こしたものではないのでちょっとした不注意で起こしたものなので。もう一瞬にして一生背負っていかないかん罪になってしまいます。ですので事故を起こした者だけじゃなくてその家族もやっぱり犠牲者になってしまう。今でもそういうのをよく見ているのでできるだけそういう事故を減らしていくのが私たちの使命と思って日々仕事をさせてもらっています」
被害者だけではなく加害者の人生まで狂わせてしまう交通事故。その悲惨さを長年目の当たりにしてきたからこそ、交通事故を一件でも減らしたいという強い思いで、日々の業務にあたっています。
今年10月には県内からただ一人全国優良警察職員に選ばれました。

その宮本さんが職場の目につくところに飾って大切にしているものがあります。

(高知警察署 宮本誠二 警部補)
「嫌なことがあったり気分が落ち込んだ時にこれを見ながら園児の顔を思い出して元気をもらってます。うれしいです」
交通安全教室に参加した園児からもらった手づくりのメダルです。命を守るための一歩を教えてくれた宮本さんへの感謝の気持ちが込められています。

(高知警察署 宮本誠二 警部補)
「一回やったからと言ってみんながすぐに(交通ルールを)守れるかといったらなかなか難しいとは思いますけど、こういう活動を続けていったらみなさん、小さい園児も守ってくれると信じて毎回安全教室行ってます」
取材にあたった尾上記者です。宮本さん、まじめで頼れる人柄がVTRから伝わってきましたね。
(尾上記者)
「とにかく物腰が柔らかくて謙虚な方でした。取材中も『自分は特別なことは何もしていないけど長く働いた経験はあるのでそれを後輩に伝えていきたい』と話していて、後輩からは『交通課のお父さん』と言われているといいます」

交通課のお父さん!同僚からの信頼も厚いんですね。「交通課」の仕事は事故が起きたら現場で事故処理をしたり、スピード違反の取り締まりをしたりというイメージが一般的ですが…
(尾上記者)
「宮本さんが担当している『交通規制』は、イベントや工事で道路を使う際の許可や道路標識・横断歩道の設置など“道路を管理する”のが主な仕事で、『消えかけてる横断歩道を書き直してほしい』など県民の要望を受けることがとても多いそうです。予算の問題もあるので全てに今すぐ対処するのは難しいのですが寄せられた要望はすべて警察の内部でしっかり検討しているということです」
決して目立つ仕事ではないんですが事故をなくすために県民の“声”を受けとめる重要な役割ですね。
(尾上記者)
「取材をする中で『警察は県民にとって安全を守る最後の砦だから』という宮本さんの言葉が大変印象に残りました」

事故を防ぐためには私たち一人ひとりが交通安全の意識を常に持つことが何よりも大切です。大切な命を突然奪ってしまう事故をなくすため、わたしたちも気をつけたいと思います。