「西南文学賞」構想と東山彰良さんの新刊
東山さんが2015年に直木賞を受賞した作品は台湾を舞台にした壮大な青春ミステリーの「流」でしたが、その後2018年に「僕が殺した人と僕を殺した人」、これは長いので「ぼくころ」と略すのですが、毎日新聞社が主催する織田作之助賞を受賞したときに、それを記念するトークイベントを西南学院のホールで開き、私が聞き手となったことから大変親しくなったのですが、そのときに「西南文学賞」という九州発の文学賞を創設したらどうかと思いついて本気で取り組んだことがありました。これが今日のテーマです。
大学でいえば、例えば「早稲田文学」という文芸雑誌がありますが、これは1891年(明治24年)に当時の東京専門学校文学科の坪内逍遥が創刊したもので、早稲田大学出身の作家がここからたくさん育ちました。また『三田文学』は1910年(明治43年)に慶應義塾幹事の石田新太郎が主導して、文学科教授だった森鴎外と協議して永井荷風を主幹に据えて創刊され、こちらでは慶應義塾大学の作家が育ったわけです。
ただ、早稲田や慶應と西南学院とでは学生数を含めて規模が違いますので、私は西南学院から4人もの芥川賞や直木賞の作家が出たことはすごいことだと考えたわけです。そこで「西南文学」という言葉を勝手に作って「西南文学賞」を創設して、九州から育つ作家の登竜門にできないものかと思ったのですが、大学側も積極的ではなかったこともあり、残念ながらこのアイデアは立ち消えになってしまいました。
RKB毎日放送の社長も西南学院出身ということですので、できていたらさぞ盛り上がっただろうと思うのですが、これは仕方がありません。
それはともかく、西南学院卒の4人はいずれも大変素晴らしい作家で、これは弊社の本を宣伝するわけではないのですが、東山さんが1年半にわたって毎日新聞夕刊で連載した「三毒狩り」という作品が、7月下旬に発行されます。
私は事件記者で、福岡勤務当時は編集局長という幹部だったことで対談する機会を得て作家である東山さんとお付き合いが始まったのですが、まさか出版社社長として東山さんの本を出すことになるとはこれまで想像したこともなく、ご縁を感じるばかりなのです。
この作品はどこからどうやってこんなストーリーを創作したのだろうと思うほど中国を舞台にした壮大な物語で、上下巻で長い小説なのですが、全く退屈などすることなく読み進められる面白さですので、是非読んでいただきたいと思っています。