「梨泰院」はもう一人の自分になれる解放区

―――事故で亡くなった人の多くが『MZ世代』と呼ばれています。主に30~40代のミレニアル(M)世代、主に20代のZ世代ということで、中高年の中には、梨泰院やハロウィンに否定的な人も多い中、否定されればされるほど、梨泰院ハロウィーンはMZ世代にとってより重要な場所になってきているという事ですね。この点どう思われますか?

(クォン・ヨンソク准教授)
今回の事故が起きた直後には、インターネット上で中高年の方とみられる人たちが、『アメリカのイベントになぜ韓国で若者が集まってこんなことになったんだ?』とちょっと若者たちを非難するような書き込みとかが見受けられたんですよね。それに対して若者は、やはりそうではないと。

『自由』、『多文化』、『寛容さ』を打ち出す若者にとって、解放区であり、もう1人の自分になれるそういう特別な場でもあるんですね。単に遊ぶ場だけではありません。もう少し社会的な意義もある場所であるし、行った若者が悪いわけではないわけで、警備が出来なかった警備や行政の問題でもあるので、いま追悼のメッセージの中で『君達は何も悪くない』その一言がやっぱり多いですよね。

―――若者世代は自分たちの社会を指す言葉として『ヘル(地獄)朝鮮』と言う言葉が出てきているようです。彼らが置かれてる状況は学歴重視で就職難、安定しない雇用、そして世界一の自殺率、ですからこの状況は地獄ということで、自虐的にこういう言葉があります。彼らにとってハロウィーンは、肩書き・出身地に関わらずみんなが対等に楽しめる場、そういう方がたくさんいたということですね。

韓国は本当に学歴社会で幼稚園の頃から受験戦争にさらされる形で、受験に勝ち上がって大学を出ても今度は就職もできない。就職した後も雇用が安定しないということで、本当にいつになれば自分たちは解放されるのかというそういう非常に厳しい絶望感もあると思うんですよね。もう就職だけじゃなく結婚や子育て、恋愛すらも放棄する、というような形の自嘲的な若者が多いんです。

その中で、年に一度ぐらいですね。もう1人の自分になったり、あるいは肩書き・学歴に関係なく地方からもどんどん来てソウルの中心で何か謳歌するというような、発散の舞台でもあったというところで、今までそれが世界中から集まるイベントだったのに、もう少し本当に国や行政、そして警察、もっとこの社会的な意味も含めて考えていれば、警備態勢も違ったものになっていたんじゃないかと思う。一つだけ言うと、以前はできていたんですよね。今年だけできなかったことはやはり問題だろうと思います。
(2022年11月3日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)