頑なな日銀総裁のために円安基調は収まりそうもない。消費者物価指数は3%を超えて上昇しているが、専門家は今の物価上昇はウクライナ戦争や原油高などによるもので、円安が物価上昇に本格的に反映するのは来年以降だという。だが、円安デメリットは各所で出始め、そのしわ寄せが既に国民生活を脅かしている。危機的経済の中で翻弄される現場の声を聞いた。
■「こないだマックのハンバーガー買ったらめっちゃ高かった」
円安による物価高が家計に与える影響は、低所得者にとって最も深刻だ。例えば1ドルが150円になった場合の家計負担を所得別に表したところ、年収300万円未満では年間6万6472円増加する。これに対し年収1000万円以上では年間11万2057円の増加となる。つまり所得は3倍以上だが、負担増加は2倍に満たない。
経済評論家 加谷珪一氏
「一般にインフレが進行すると低所得者層ほど厳しくなるというのは万国共通です」
その厳しい負担増加に直面している現場を取材した。
そこは横須賀市の“子ども食堂”。困窮により食事が摂れない子どもたちに無償で食事を提供している。朝晩2食の他、弁当を持たせることもあれば、困窮家庭に食材を届けることもある。
朝6時、朝食を食べにやってきた高校2年生は言う・・・。
「ありがたいの一言です。本当に感謝です」
しかし、運営する側は今、深刻だった。食材の多くは寄付で賄うが、足りないものは代表の和田さんが自腹を切っている。
子ども食堂『よこすか なかながや』代表 和田信一さん
「今日買い物に行って予算出ちゃいました。朝1000円以内の予算なんですが、1134円。危機感を感じてます。家庭でご飯を食べられない子が来ているので、もしウチがなくなったら子どもたちはご飯食べられなくなってしまう。怖いです。(中略)色々経験をさせてやりたくてバスを借りて色んなとこに連れて行ったりしてたんですけど、それも今はほとんどできなくなった。バスを借りるのも、燃料費も、結構厳しい…」

18時、夕食を食べに来た小学生たちの会話も切実だった。
小学5年生の子ども
「こないだマックのハンバーガー買ったらめっちゃ高かった」
別の小学生
「200円バーガーが220円だった」
「スーパー行くと、今まで2桁だったお菓子が、消費税込みでなぜか3桁になってる」
小学5年生の子どもたち
「これ社会の勉強だね」
「今ドル高いも」
「日本的には大打撃だ」

こうした現実に政府は経済対策を打ち出している。電気代やガス代、ガソリン代の引き下げのための支援で一世帯4万5000円分の計算となる12.2兆円、円安のメリットを最大限に活かすためインバウンドを促進するための4.8兆円など。さらに9月には住民税非課税世帯を対象に一世帯に5万円の援助も打ち出している。しかしこの一律の経済対策。富裕層も同じように恩恵を受けるもので、本当に困っている人の元に効率的に届くのだろうか。
自民党 税制調査会長 宮沢洋一 参議院議員
「本当に困っている方は収入も資産もない。しかしどなたがそうなのかという情報が国は全くつかめていないんです。マイナンバーに紐づけられていたりすればピンポイントでできるはずなんですが…」
さらに子ども食堂だけでなく、今の現実を現場の眼で不安になるという人もいる。 大阪豊中市の社会福祉協議会で困窮世帯を一軒一軒回り食べ物を配っていたり、相談を受けたりしている勝部麗子事務局長は、全国からフードバンクに寄せられてきた支援物資を前に現在の心配を語ってくれた。

豊中市社会福祉協議会 勝部麗子事務局長
「コロナの時は特定の事業者、どこが困っているのが見えていたのでそこを中心に支援ができましたが、今回は忍び寄る貧困と言いますか…(中略)先日、定時制の高校にフードバンクを届けに行ったんですが、兄弟がたくさんいたので助かりますと言われました。今回の政府の支援では一世帯に5万円で、兄弟がいても一人っ子でも同じなんですね。子育て中の過程は食べることがウェートが大きくて、そこが歪んでいるんです。昨年年末は一人当たり5万円だったので、クリスマスが過ごせましたとか、うちにもサンタさんが来ましたとかいう声があり、私たちが心配していた人たちが乗り越えられたんですが、今回は無理なのではないかと心配しています」
この現実を目の当たりにして税制調査会長の宮沢議員は、経済成長しか対策はないという。
自民党 税制調査会長 宮沢洋一 参議院議員
「やはり経済全体を成長させていくことが皆さんにも恩恵が出てくると…。時差っていうのが必ずあります。円安、物価高が先に来て、それが1年なのか2年なのか…。その間は政治がしっかり支えなきゃいけない…」
経済全体を成長させていくことはアベノミクスの3本の矢のひとつだったはずだ。だが結局、大規模緩和だけが亡霊のように継続され、成長戦略も財政健全化も立ち消えてしまった。かくして出口が見えないトンネルに入ったままの日本経済。世界の賃金が上がる中、日本人の給料だけが20年間ほとんど上がっていない。ところが去年、コロナ禍の中にも関わらず日本の法人所得は過去最高だった。