名物のひとつだった「観光船」

北海道の最東端に位置する知床半島は、斜里町、羅臼町の2つの町からなる地域です。アイヌ語の「シリエトク(地の突端、岬)」に由来する名前を持つこの地域は、2005年に生態系と生物多様性が評価され、国内で3番目に世界自然遺産に登録されました。

観光協会の新村さんは「エゾシカ、ヒグマなど大型哺乳類も多く高密度で暮らしている地域です。海ではシャチ、クジラなども見られ、冬には流氷がやってくる、自然豊かな地域」と説明します。

▲エゾジカの親子

近年、知床の自然やヒグマを海から眺める観光船と、森林を散策するネイチャーツアーが大きな観光の柱として人気を博していました。この柱のひとつで、痛ましい事故が起こりました。

▲流氷の様子(写真右側は海)

事故によって問われた「地域の責任」

2022年4月23日、知床半島西側海域を航行中の観光船「KAZU I」が沈没した事故。国の運輸安全委員会の調査報告書では、船の点検・保守整備の不備、海況悪化が予想される中での出航、引き返し判断の遅れ、有効な通信手段の欠如などが原因として指摘されています。

しかし、この事故は、運航会社の問題にとどまらず、知床という観光地全体のあり方に疑問を投げかけることになりました。

新村さんは「『観光協会として何をやっているんだ』という意見をたくさんいただきました。事故については事業者の責任という部分もありましたが、地域としての責任も問われました」と当時を振り返ります。

北海道大学の石黒さんは「さまざまなアクティビティ事業を展開する、比較的小規模の事業者が多いという特性から、地域として提供しているサービスや選択肢の全体像が見えにくい側面はあった」と、構造としての課題を指摘します。