演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバーの1人である音尾琢真。映画、テレビ、舞台だけでなく、これまでに自身が手掛けてきた楽曲をバンドアレンジで披露したソロプロジェクトなど、表現者としてさまざまな活動を行っている。
そんな音尾が、現在、日曜劇場『キャスター』(TBS系)で演じているのが、報道番組『ニュースゲート』のプロデューサー。現場と上層部の板挟みになりながら番組制作に奮闘する中間管理職という立場を通して感じた報道のリアルとは――。
現場と上層部つなぐ存在――プロデューサーという職業について

報道番組におけるプロデューサーの役割は、番組制作全般の責任を負い、企画立案、予算管理、出演者・スタッフの選定、制作の進行管理など、多岐にわたる。
そんなプロデューサー・山井和之という人物を演じてみて、「胃が痛くなる役でしたね」と音尾は笑う。実際、本作のプロデューサーを務める伊與田英徳氏らの動きを見て、プロデューサーという立場がいかに気苦労の多い役割であるかを実感したそうだ。
「ただ番組を好きなように作っているだけじゃない。きっとさまざまな軋轢がある中でバランスを取りながら現場と上層部との橋渡しをしているのだろうな、と」。実際に音尾はTBSの報道番組『news23』の現場にも足を運び、裏側にある人間模様を肌で感じていった。
プロデューサーという職業そのものについても「自分にはできない仕事」と本音を漏らす。「物作りをリードできることや、自分の中にある構想をパズルのように組み立てていく面白さがありますよね。ですが、さまざまな部署の要望を調整し、俳優事務所からの希望にも応えて、番組制作のために資金集めもして…。と考えたら、自分にはこの仕事は向いていないなと思いました」と、苦笑いを交えて語る。
命を扱う現場で報道が果たすべき役割

音尾はこれまでに、消防士やレスキュー隊員といった“命に関わる現場”を支える役柄をいくつも演じてきた。実際に災害現場で活動する人々の姿に触れ、命を守ることの重みについて芝居を通して学んできたからこそ、本作で演じた“報道に携わる人間”という立場にも、自然と責務の大きさを重ねるようになったという。
「災害時、被災者の命や安全を最優先するのが救助活動に従事する人たち。その中で、報道の人間は直接人を助けるわけではないけれど、今そこで何が起きているのか、どんな助けが必要なのかを正確に、そして冷静に被災地内外に伝えることに大きな意味があると思うんです」。
情報が混乱を生む可能性もある災害時において、報道が果たすべきは“伝えることで助ける”というもう一つの現場支援。音尾はその役割を、「光ではなく、影として支える仕事」と表現する。
「たとえば報道ヘリコプターの音で、救助を求める声が聞こえなくなってしまうといったケースも然り。取材したいという気持ちは分かるけれど、現場を混乱させてしまっては本末転倒ですよね。だからこそ、報道の人たちは“今、優先すべきは何か”を常に考えながら取材をしているんだと思うんです。そうした取材のあり方は難しい立ち位置ですが、大切な役割ですよね」と明かす。
趣味である釣りを通して交流のある報道関係者からも、その緊張感や使命感を感じ取ることがあったという。「報道に携わる方たちからは、常に何かヒリヒリするような、命の重みを背負っているような責任感がある。それが息抜きであろう釣りをしていても伝わってくるんです」。
自身が演じている“報道に生きる人間”にも、そうした実体験が加わり、自然と重みを宿している。
