被害者遺族の苦悩「前に進まなければならなかった」
被害者の遺族は、死刑についてどう考えているのか。
私たちは事件から29年間、メディアの取材をすべて断ってきたという遺族のもとを訪ねた。
デネス死刑囚に夫を殺害されたニコール・ビソツキーさんが、今回取材に応じた。

ニコール・ビソツキーさん
「29年の時を経て夫の存在を知ってほしいと思ったのです。彼は一人の人間で、今も生きていることを」

ニコールさんと夫のヤノスさんは、7年間の交際期間を経て結婚。5年にわたる結婚生活は幸せに満ちた日々だった。しかし、事件がすべてを変えた。
宝石商だったヤノスさんは、仕事で面識があったデネス死刑囚らに店を襲われ、殺害されたのだ。

ニコール・ビソツキーさん
「夫の代わりに自分が死んだらよかったと思い続けてきました。それほど彼を愛していました。言葉では言い表せません」
事件当時から捜査に携わり、その後もニコールさんを支え続けてきた元捜査員は、デネス死刑囚について「死刑は当然」と話す。

元捜査員
「死刑はアメリカに存在する制度です。デネスのような人間は社会に存在する価値はありません。彼らは不必要で邪悪な存在です。世の中には悪が存在し、それがデネスです」
一時は生きる気力を失ったニコールさんだが、夫が築いた事業を潰したくないという一心で店を守ってきた。
29年の歳月が経った今、死刑判決をどう思っているのか。
ニコール・ビソツキーさん
「デネスは自分がしたことに対する責任があります。彼はその責任から逃れるべきではありません」
生涯、刑務所で罪と向き合うべきだとした上で、なんとか赦そうと努力を続けているという。

ニコールさん「私はデネスを赦し、幸運を祈るわ」
元捜査員「赦したの?」
ニコールさん「(首を振り)なぜかって…」
元捜査員「難しいわよ」
ニコールさん「難しいわよ」
元捜査員「私は赦せない」
ニコールさん「デネスの幸運を祈るわ。本当よ」

ニコールさんがデネス死刑囚を赦そうと必死に努めるのは、夫が慈悲深い人間だったからだという。
ニコール・ビソツキーさん
「私にはデネスの魂を赦す気持ちがあります。(夫の死後)私は生きていたくなかった。でも私が死ぬ道を選んだら、夫は人生を無駄にするなと怒ったでしょう。だから私は立ち上がったのです。
私は生き続けることで、どれだけ夫を愛していたか証明したかったのです。だから前に進まなければならなかった。じゃないと私たちの愛は本物ではないということになりますから」