年金制度改革法案をめぐり自民党が迷走している。本来3月中旬に国会提出予定だった法案が大幅に遅延し、しかも当初の目玉政策であった「基礎年金の底上げ」が削除された「骨抜き法案」として提出された。国民生活を左右する年金制度をめぐり国会が揺れている。
政局を左右する?“激ヤバ案件”
そもそも、「年金制度改革法案」は5年に一度の財政検証を経て見直しが行われる重要な法案である。与野党の合意で最も重要だと位置づけられる「重要広範議案」の一つで、議論の行方によっては政局を左右しかねない「激ヤバ案件」ともいえるものだった。
今回提出された法案のポイントとしては、パートで働く人が厚生年金に加入しやすくなるよう、「年収106万円の壁」と呼ばれる年収要件が撤廃されることなどが盛り込まれた点が挙げられる。

一方、当初は“改革の柱”とされていた「基礎年金の底上げ」という部分が最終的には削除された。
軍配があがった“目先の選挙”
2024年の財政検証結果によると、現在の年金受給水準は現役世代の平均手取り収入の約6割をカバーしているが、およそ30年後の2057年度には約5割にまで低下すると予測されている。特に基礎年金部分は約3割も減少する見込みであり、この問題に対処するために計画されていたのが「基礎年金の底上げ」だ。

この「基礎年金の底上げ」が削除されることで最も大きな影響を受けるのが就職氷河期世代と呼ばれる世代だ。この世代は、正規雇用の機会が限られ、厚生年金の未加入期間が長い人が多いとされる。そのため基礎年金への依存度が高く、その底上げは氷河期世代の「老後の生活保障」にとって死活的に重要であった。
しかし、基礎年金の底上げを実現するための財源として検討されていた厚生年金の積立金を活用する案は、現在の年金受給者の反発を招く可能性があった。今夏に行われる参議院選挙を前に、自民党内で議論が割れた。
社会保障制度調査会長の田村憲久氏が「基礎年金が毀損をしていくということで、これをなんとか止めなければならないというのは、これは全党一致した考え方でございました」と述べていたが、選挙を控えた参議院議員からの反発を抑えられず、実際の法案から「基礎年金の底上げ」が削除されたことは、自民党が目先の選挙対策を優先させた結果と解釈せざるを得ない。