マイナカードの点字が「ユウタ」
本題に戻ります。毎日新聞が発行する点字新聞「点字毎日」の記者の友人で、点字出版の仕事をしている全盲の方に、点字で「ゆうた」(ゆ、う、た)と表記されたマイナカードが届いたそうです。役所の窓口に正しい点字表記である「ゆーた」への修正を求めたものの、受け入れられなかったといいます。
「たいしたことではない」と感じる方もいるかもしれません。「点字の人にだけ特別対応するのは大変だ」と思う方もいるかもしれません。しかし、高精度な自動点訳システムが存在する現在、マイナンバーカードに点字を記載するならば、その読みも本来の発音通りにすべきではないでしょうか。点字では「ゆ」「ー」「た」がその方の名前であり、「ー」が「う」になってしまうと、違う名前になってしまいます。
人の名前に対する思い入れは深く、例えば「澤」と「沢」のように、字形の違いが本人にとっては大きな問題でも、他人から見ればどちらでも良いと感じることもあります。点字を使う方にとっても同様ですが、問題を複雑にしているのは、学校で習うひらがな表記としても違和感があるという点です。
戸籍フリガナ表記への懸念
5月26日に施行される改正戸籍法では、戸籍の記載事項に氏名のフリガナが追加されます。本籍地の市区町村からフリガナの通知が届き、その確認が必要になりますが、この点で懸念があります。法務省のホームページの告知では、「法務太郎」という例が「ホ」「ウ」「ム」「タ」「ロ」「ウ」と表記されていました。点字使用者にとっては、「ホウム」の「ウ」も「タロウ」の「ウ」も長音符「ー」になるため、ここでも問題が生じる可能性があります。
このような話をすると、必ず「普通は」という意見が出てきます。「普通、佐藤はサトウじゃないか」というものです。しかし、障害の有無にかかわらず相互を尊重し共生する社会を目指す障害者基本法が示すように、それぞれの「普通」を尊重することが重要です。今回のマイナカードの点字の問題、そして今後問題となる可能性のある戸籍のフリガナの問題は、そのことを示唆しているのではないでしょうか。この問題を契機に、マイナンバーカードや戸籍への記載について、改めて考える必要があると私は考えます。
◎山本修司

1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。