5月18日に東京・国立競技場で開催されるゴールデングランプリ(以下GGP)に、女子走高跳世界記録保持者のヤロスラワ・マフチク(23、ウクライナ)が出場する。5月13日には東京都内で男子走高跳日本記録保持者の戸邉直人(33、JAL)との対談イベントが行われ、若い世代へのアドバイスをしたり、走高跳に向き合う姿勢などを語り合ったりした。2人はエージェント(選手に代わって試合への出場を主催者と交渉する人間)が同じということもあり、同じ場所で練習することもある間柄。戸邉にマフチクの強さについて語ってもらった。

対談中にマフチクから戸邉に意外な質問

対談中、助走スピードについて2度、話題になった。1つは走高跳の難しさを対談イベント出席者から質問されたとき。2人は異口同音に次のように話した。

マフチク選手

「前に跳ぶ走幅跳と三段跳は、助走スピードが速くなれば記録も伸びますが、高く跳ぶ走高跳はその時の体力に合った助走スピードを探す種目なんです。自己記録に挑戦するときなど、気合いが入ってスピードを出したくなりますが、それを抑えて、思い描く助走をすることが重要になります」

もう1つは対談中、マフチクから戸邉に質問があったとき。その内容が戸邉には意外だったという。

「彼女の特徴は大きいカーブを描く助走を、速いスピードで走ることです。弧が大きいので最後はバーに平行に近い角度で走って踏み切ります。スピードを出すから大きな弧で内傾ができるのですが、ゆっくりでも上手く内傾するにはどうすればいいか、を質問してきたことに驚きました」

タリンの日本食レストランで会食した戸邉選手(左端)とマフチク選手(左から4人目)

戸邉とマフチクはエージェントが同じ。戸邉は22年の日本選手権でアキレス腱を断裂したため近年はできていないが、それ以前はダイヤモンドリーグを連戦する選手だった。ヨーロッパではエージェントが拠点とするエストニアの首都タリンを、遠征中のトレーニング拠点としている。冬期トレーニングもタリンで行うことがあり、今年も1月後半から約1か月間、同地で練習を行った。同じメニューを行うわけではないが、マフチクも同じ場所で練習を行うことが多いという。

「助走スピードにはこだわりがあるみたいで、助走のスタートから踏み切りまでのタイムを毎回、コーチが測っています」

助走スピードを武器に世界記録も跳んでいるマフチクであっても、スピードを抑える助走について考えている。マフチクをよく知る戸邉だからこそ、「安定性につながらないジレンマがあるのかもしれません」と、世界記録保持者の内面を感じ取っていた。