厚生労働省が初めて「しわ改善効果」を認めた商品『リンクルショット』を大ヒットさせた大手化粧品メーカー「ポーラ」。しわを研究し、発売まで実に15年の歳月を費やした。皮膚のかすかな炎症がしわの原因だとつきとめ、改善成分「ニールワン」を見つけ出した。1万5000円近くするが、これまでに370万本、470億円を売り上げる。創業90年余りのポーラを率いるのは、大手化粧品メーカーで初めて女性社長となった及川美紀社長だ。2020年に社長になってからは、新型コロナウイルスのまん延などで難しいかじ取りを任された。ポストコロナを見据え、どのような戦略を練るのか及川社長に聞いた。

「一生働ける会社」を探してポーラを就職先に

―――宮城県石巻市のご出身だそうですね。
 石巻という三陸の小さな町の出身だったので、大学進学を機に東京に出るということだけでドキドキでした。大学進学の時は「東京に行かないと将来の道は開けない」と強く思い込んでいました。両親を説得して東京の大学に進学し、就職先を決める時の大前提は「一生働ける会社」ということでした。結婚・出産とさまざまなことを経ても働き続けられる会社が希望でした。

―――ポーラを就職先に決めた理由は?
 就職先を選ぶ時に、すごく単純ですけど「女性のものを扱っている会社ならば、女性の力を信じてくれるかもしれない」と考えたんです。とりあえず、ベテランの女性が頑張っている会社はいい会社に違いないと思い、会社訪問で「40代の女性社員はいらっしゃいますか?」とか「子どもを産んで働いている女性はおられますか?」とかを聞きました。その中で「うちの会社はいっぱいいるよ」と言ってくれたのが、ポーラだったんです。

「まず人の話を聞け」会社員人生の教訓を書き込んだ『手帳』

―――いつも大切に持ち歩く「手帳」があると聞きました。
 過去に私が叱られた言葉や忠告していただいてありがたかった言葉などを書き溜めている手帳があります。「まず人の話を聞け」だとか、例えばリーダー論的なものでは「みんながリーダーを見ている。リーダーの影響力をあなどるな」とか。言われたら忘れる前に覚えておこうと思って、手帳に書くようになりました。手書きにこだわるのは、パソコンではどうもその時の感情とかがうまく残せないんですよね。

―――好きな言葉は「当たって砕けろ」だとか?
 「当たって砕けてまた当たる」。砕けるだけでは悲しいので、また当たる。要は、懲りないんですね。当たって砕けてまた当たるので、挫折だらけなんですよ。一番大きな挫折は、出向先で組織のリーダー的な仕事をしていた時のことです。責任者だという自負もあって、しかもみなさんから割と頼りにされてバリバリ働いていて…。30代前半の頃って、ちょっとお山の大将になることってあるじゃないですか。脂ののった時期に、わかりやすく天狗になっていまして…。