春の叙勲の受章者が29日発表され、石川県からは女性9人を含む48人が選ばれました。地震で被災し、ふるさとを離れながらも、輪島塗の技を磨き続けた人間国宝・山岸一男さんも、旭日小綬章を受章しました。
さまざまな分野で顕著な功績を挙げた人に贈られる旭日章には16人が、長年公共の業務に従事し功労のあった人をたたえる瑞宝章は32人が受章しました。

「これね、音が大事なんです。炭の切れ味がいいかどうかってやっぱ分かる。この年になって思うんですけど、やっぱりモノを作る時は五感が大事なんです」
輪島市の漆芸作家、山岸一男さん(71)。今回、旭日小綬章を受章しました。
山岸さん
「仕事場にいると夢中になっているというか、一番楽しい、間違いなく。今まで仕事が嫌になったことは一度もないですから」
この道50年、極めてきたのは輪島塗の装飾技法の一つ、「沈金」です。

漆の器の表面に線を彫り、金粉や金箔を埋め込むことで、輪島塗は繊細で煌びやかな表情に一変。
その高い技術が認められ、山岸さんは2018年、県内で9人目となる人間国宝に認定されました。
今回の受章には、特別な思いを感じたといいます。
山岸さん
「能登半島地震の復興のことを考えると、これは喜ぶというよりも責任があると思った。責任というのは、今できることは何かを、常に考えること」
去年元日の能登半島地震で輪島市の自宅兼工房が全壊し、左肩を骨折した山岸さん。当時は複雑な心境を口にしていました。

山岸さん(去年1月)
「本音はね、何から手を付けたらいいか分からない。絶対に戻ってやるぞという気にはなかなかなれないよね」
それから1年4か月。山岸さんは、金沢のみなし仮設住宅で暮らしながら、作品づくりを続けています。
山岸さん
「これは合子と言って…蝶々ですから、蓋を取ったときに香りが飛び立つという意味で作ってみたんですけどね」
先人が受け継いできた伝統を絶やすまいという思いは、震災を経験していっそう強まったといいます。

山岸さん
「若い人が(震災で)大変だけれども、それでも漆が好きだという人をどう育てるかというところ。どれだけ美辞麗句を並べて喋るより、私の立場はものを作って見て頂くことが一番の役目かなと」