◇《自身を掘り下げていく“当事者研究”という対話手法がヒントに》

月形刑務所の刑務官
「月形から参りました。よろしくお願いします」

3月、月形刑務所の刑務官たちが訪れたのは、北海道日高地方・浦河町にある『べてるの家』という施設です。『べてるの家』のメンバーが、歓迎の歌で出迎えます。

「♪おなかが空いたくらいで…泣かないでください」

統合失調症などの精神障害があり、幻聴や妄想などに苦しむ人たちが、ソーシャルワーカーらと、ともに暮らしています。

月形刑務所の刑務官
「先手必勝で、殴ったもん勝ちっていう感じのスタンスの人が、やはり受刑者には多いですね」

ソーシャルワーカー 福岡拓弥さん
「"べてるの家"でも、それは変わらないですね。そのことを"爆発"というふうに呼んでいます」

月形刑務所の職員が『べてるの家』を見学する目的は“当事者研究”と呼ばれる対話の手法を学ぶためです。この“対話”という取り組みは、もう40年以上も続けられています。

『浦河べてるの家』メンバー 浅野さん:「車がバァッと走ったんですよね。それで、もう腹立っちゃって…自転車をばって(倒して)しまったんですよね」

『浦河べてるの家』向井地生良 理事長 :「やっぱり苦労が溜まってパンパンになると、アンテナが敏感になって、ちょっと誤作動的な感じになる…」

『浦河べてるの家』で行われるのは、病気の“治療”ではなく“研究”です。一人ひとりが、自分の病気の研究者となり、生活の中で現れた症状や、苦労したことを発表します。

『浦河べてるの家』向井地生良 理事長 :「浅野さんの生活の中で、いろんな何か不信なことは、どんなことがありますか」

『浦河べてるの家』メンバー 浅野さん:「うちの親がもう70歳で高齢になって、その後のことがわからないとか」

◇《対話から、自身の課題を共有して解決法を探っていく…》

大切にしているのは、自身の病気をとことん掘り下げ、症状や苦労と向き合うことです。それを隠すのではなく共有し、解決方法を話し合うことで、一緒に暮らしていくことを目指します。

『浦河べてるの家』向井地生良 理事長 :「浅野さんにさらに尋ねたいことはありますか?」

理事長の向井地さんが、ほかのメンバーに話を向けてみます。ここからまた対話が動き出していきます。

ほかのメンバー:「浅野さんは、いつも受身なんじゃないかな。これから受身じゃなくて、攻めたことをやっていけばいいんじゃないか」

ソーシャルワーカー:「耳がすごい敏感になって、人の声が入ってこないっていうときは、もう自分の発信が足りないからなんじゃないかな」

かつて、精神障害のある人は、閉鎖された病棟で薬漬けにされる、一方的な治療が当たり前でした。しかし、退院すると受け入れ先が無くて、路頭に迷ったり、社会生活で悩みを抱えて、入院を繰り返したりすることが多かったといいます。

『浦河べてるの家』向井地生良 理事長
「やっぱり、悩むべきことはちゃんと悩んで、困ったことはちゃんと困って。その代わり、人に相談したり、人の力を借りたり…自分のことだから“みんなで一緒に研究しよう”って言って始まったのが“当事者研究”なんですよね」

これは、ひたすら刑務作業を強いられた受刑者が、社会に出てから居場所がなく、犯罪を繰り返してしまうことによく似ています。

『浦河べてるの家』向井地生良 理事長
「やっぱり、第三者の力によって保護して管理して、服従を強いる構造によって、社会の治安が保たれるという構造から抜け出さないと駄目だと思います」