農薬や化学肥料を使わず、農作物を育てる「自然栽培」。SDGsへの関心が高まる中、地球環境に優しい農業が今、注目されています。この春、愛媛県から長門市に移住してきた家族がいます。農家として12代続いた地元を離れて長門市で、自然栽培で米を作り始めました。移住を決断した思い、そして、目指す農業とは。その姿を追いました。

田園風景が広がる、山口県長門市日置中の畑集落。
稲作が盛んな集落で、8世帯が農業を営んでいます。今年春、愛媛県西条市からこの集落に家族3人で移住してきた夫婦がいます。首藤元嘉さんと妻の陽子さんです。元嘉さんは倒れた父親のあとを継いで農業を始めました。


ISATO.FARM代表・首藤元嘉さん:
「自然栽培でやる事が関わっている人間の体の健康だけではなくて、例えば地域の環境の保全であったりだとか、例えば今年なんかでいうと農薬、肥料の価格が倍近く高騰しています。オーガニックで栽培する事によって地域内でのエネルギーの循環」

家は、愛媛県で12代続く農家でした。継いでからの10年間、「自然栽培」による米作りをしてきました。「自然栽培」とは、本来、土が持っている力を生かし、余分な栄養を与えずに作物を育てる農業です。農薬や化学肥料を使わず、有機栽培とは違って家畜のふんなどの堆肥も使いません。

首藤さんが愛媛で管理していた田の面積は2.5ヘクタール。農薬を使う田の近くで栽培することはできず、規模を拡大することができませんでした。

元嘉さん:
「愛媛県ではなかなか自分たちの成長っていうのが思うようにできませんでした。その時に長門市が有機農業でこれから街作りを行っていく、自然栽培や有機農産物の供給基地になると長門の成長戦略として打ち立てているのでそことこう私たち出会ってマッチングして・・・」

化学肥料や農薬などを使わない有機農業、日本では耕地全体のわずか0.6%に過ぎません。イタリア、ドイツ、スペインは10%を超える中、日本は低い水準です。
そこで国は、今年7月に法律を制定。「みどりの食料システム戦略」を策定し、2050年までに有機農業をすべての耕地の25%、100万ヘクタールに増やす目標を掲げました。その戦略の中には、自治体が主導して地域ぐるみで有機農業に取り組む「オーガニックビレッジ」を作り出すことも盛り込まれています。

県内では唯一、長門市が、この「オーガニックビレッジ」に手を挙げました。生産だけでなく流通から販路拡大までを地域で支え、農家が有機農業に転換するのを後押しする狙いです。国は、取り組みにかかる経費を補助します。

元嘉さん:
「長年ここはもう無理やという事で集落の人も手放されたと。来年ここを開拓していくというふうに」
畑集落には、およそ20ヘクタールの農地があります。このうち半分は20年以上耕作されていない遊休農地です。首藤さんはこの集落のすべての遊休農地を再生させることを目標に、今年6月、まずは3ヘクタールに苗を植えました。除草剤はまかないため、草が伸びます。放置すると栄養が吸収されてしまうため、除草作業は欠かせません。

稲穂が出そろった9月上旬。茎や穂の数が多い田があれば少ない田もあります。生育にはばらつきがありました。

元嘉さん:
「稲の生育はあまりよくないんじゃないかなという印象を受けています。(愛媛県に比べ)夏がそれほど暑くなかったというのと、秋が来るのが早いというので、同じ日本なのにこれほど気候が違うのかと」

そして、10月20日、予定より2週間遅れて収穫を迎えました。収量は一般的な農法に比べ自然栽培は6割程度です。試しに収穫したときは、愛媛で作っていたときの3分の1程度でした。不安が募りましたが、この日は、予想していた収量を超えました。笑みがこぼれます。


元嘉さん:
「満タンになりましたもみ、よかった。もみ全然ならんかもしれんて言いよったやないですか、排出します」

元嘉さん:
「たくさんの人に助けられて、この日を迎えられた。集落の方々に助けられてこの日を迎えられたというふうな事で、非常にいい所に来たなという気持ちで感慨深い思いでいっぱいです」

コメは「イセヒカリ」という品種です。

元嘉さん:
「口あたりはシャッキリしていて、味わいはあっさりしているんですよね。かめばかむほどほんのりとした甘みが出てくると」

インターネットや一部の道の駅などで販売する予定です。
昼食の時間。調理は陽子さんが担当しています。

ISATO.FARM統括マネージャー・首藤陽子さん:
「普通のスーパーで3本100円で売っているきゅうりとオーガニックだけど1本100円のきゅうりだったら私はオーガニックの100円で1本しか変えないきゅうりを選ぶんですよ」

陽子さんは元美容師。扱う薬品でアレルギーを発症したことで体質を改善しようと、食に関心を持つようになりました。食卓には、有機栽培の野菜や地元でとれた食材が並びます。

陽子さん:
「安い物食べたら安くなっちゃうじゃないですか、自分が。だからそれが嫌。自分を構成するものがいい物であったほうがいいなって思っている」

今後は、米だけでなく小麦や大豆の自然栽培も計画しています。「自然を生かした農業、オーガニックを広めたい」。2人は口をそろえます。

陽子さん:
「まだまだもちろんオーガニックっていうのが当たり前ではないので、微力なんですけど、やっぱりオーガニックとか食の大切さっていうのを訴えていきたいなとは思っています」
元嘉さん:
「オーガニックをする事によって、関わっている人の体の健康、地域の健康、そして日本の経済の健康がオーガニックで守れるというふうに考えるようになりました」

作業に手間がかかること、収量が安定しないこと。「自然栽培」を広げるにはまだまだ越えなければならないハードルがあります。

元嘉さん:
「自分が技術を確立してそしてそれをシェアしていくっていうのが自分の使命ではないのかなと」

夢は、1000ヘクタールのメガファーム。持続可能な農業へー。挑戦は続きます。