「早く死にたい」と繰り返す妻  

検察側の冒頭陳述などによると、2人は1962年に結婚。子どもはいない。互いに80代を迎え、2021年にサービス付き高齢者向け住宅に入居した。

入居していたサービス付き高齢者向け住宅

夫は緑内障を患い、妻の介助を受けていた。一方の妻も足腰が悪く、転倒して骨折したことで自力歩行が困難になった。

その後、妻は夫や介護士に対し「体がかなわん(=思い通りにならない)。動かないし、やりたいこともない」「早く死にたい」などと繰り返すようになり、自殺未遂に及ぶこともあったという。

そんな妻をなだめながらも、夫も次第に「長生きしても辛いばかり」と人生を悲観し、ついには2人で心中を話し合うようになった。

ある夜、トイレに行こうとした妻が再び転倒。妻は何とかベッドに戻ったが、2人はこの時、決意を固めた。

「きょう、逝こう」

妻が「これ」と言って差し出したのはスカーフだった。しかし妻は自力で命を絶つことができず、夫がスカーフの両端を握った。自身も後を追おうとしたが未遂に終わった。

やがて朝を迎え、夫が「食事は私も妻もキャンセルしてほしい」とナースコールをしたため、職員が部屋の様子を見に来たことで事件が発覚した。

妻は、以前から夫に「私が死ねなければ手を貸して」と話していたという。そこで妻からの殺害依頼を承諾していたとして、今回の罪名は「嘱託殺人」となった。