駆除で終わり、ではない

食事の風景まで撮影させてくれるようになったハンターたちですが、駆除のニュースが出ることへの不安も口にしていました。依頼されて駆除する立場なのに、ハンター個人に批判が来ることもあるというのです。
最初のころ、取材を嫌がっていたハンターの表情を思い返しました。

話し合うことで、初めてわかる思いがあります。
何も知らずに批判することには、怖さがあります。

北海道島牧村(2019年)

この騒動はクマの駆除では終わらず、政治の問題・民主主義の問題へと広がっていくのですが、その中でも住民や村の職員、村長、議員など、たくさんの方と話しました。たくさんのことを学びました。
率直な疑問を投げかける私に、向き合い、対話を重ねてくれた島牧村の人たちに、記者として・人として、育ててもらったと思っています。

全道各地のクマ出没を取材するようになり、人にできる対策も多く知りました。「人もクマも傷つかないのが一番いい」という思いは変わっていませんが、だからこそ駆除を批判するのではなく、駆除しか選択肢がなくなる前に、すべき行動があるということを学びました。

放送局にいる立場で、まずはクマについての教訓や対策を伝え続けたいと、これまで7年、取材や発信を続けてきました。
クマ対策の草刈りなどに毎年参加し、対策や啓発のイベントを企画するようにもなりました。

札幌のクマ対策の草刈りで、等身大パネルを置いて効果を視覚化する実証実験を行った。見通しがよくなるとクマの侵入を防ぎ、ばったり出会うリスクも減らせる。白いTシャツの後ろ姿が筆者

ドキュメンタリー映画『劇場版 クマと民主主義』を制作したのも、その続きの取り組みです。

日々の短いニュースでは伝えきれないことを、一人でも多くの人に知っていただき、じぶんごとにして考えていただきたいと思っています。

クマ対策は一人では前に進められません。私の活動の影響力はほんのわずかでしょうが、「知っていれば防げた」はずの出没や被害が、ひとつでも減ることを願っています。

2019年、私は今度は札幌市内の住宅地で、野生のヒグマと出会うことになります。そこで衝撃を受けたのは、「村の課題が繰り返されている」ということでした。

文:北海道放送 幾島奈央
ドキュメンタリー映画 『劇場版 クマと民主主義』(東京で3月30日・札幌で4月5日~上映)を監督。2018年に入社後、クマの取材を継続してきた。2021年からWEBマガジン「Sitakke」の編集部

【この記事の画像を見る】

【この記事の後編】
「クマに何度も会った。偶然ではない」なぜ私は出没地点がわかったのか…そこにあった対策のヒント ドキュメンタリー映画『クマと民主主義』幾島奈央監督

【関連記事】
『劇場版 クマと民主主義』監督に聞く本作の見どころ 「人の命にもクマの命にも向き合っていなかった」7年の取材で見えた“クマと人の課題”