大谷翔平が切り開いた投打二刀流の道。その二刀流の道を追求する一人の男が、20日のドラフト会議を迎えようとしている。

かつて、その大谷が所属していた日本ハムが1位での指名を公表した、日本体育大学4年の矢澤宏太(22)。投手としてマウンドに上がると、気迫を前面に押し出し、最速152キロのストレートと5つの変化球で三振の山を築く。4年春のリーグ戦までで146回3分の1を投げて149奪三振と、その数は、投球回数を上回る。4年春までの防御率は1.66で、安定感も抜群だ。

矢澤には、三振を取ることにも強いこだわりがある。「自分がバッターをやっていても『三振したくない』とか、追い込まれて三振が頭をよぎったら正直打てないし、しっかりバットが振れない。だから、三振を取れるという印象をバッターに与えるのは大事」と語るように、そこには、打者としての経験が生きている。

矢澤は打者としてもドラフト候補だ。巧みなバットコントロールで広角に打ち分け、首都大学野球のリーグ戦では、4年春までのシーズンで、5本塁打を含む、50安打を記録した。さらに、足も速い。今年6月に行われた侍ジャパン大学日本代表の選考会で行われた50m走で、全野手トップとなる5秒98を記録。「自分の持ち味は足の速さだと思っているので、内野ゴロでもヒットになるような、足で打率を残していくのが理想」と語る。

二刀流は「どうしてもやりたいというこだわりはなくて、小さい頃からやっている野球が今も続いているだけ」と語るが、レベルが高くなる環境の中でも続けてこられたのには、母校・藤嶺藤沢高校(神奈川)の大先輩で恩師でもある、元西武の石井貴さん(51、現楽天投手コーチ)からもらった、大切な一文字に支えられたからだ。

町田リトル時代に、野球教室でグラウンドを訪れた石井さんに「気持ちを大事にして頑張れ」と帽子のつばに「気」の一文字を書いてもらった。以来、矢澤は帽子が変わっても自ら「気」の一字を書き続けてきたという。石井さんが藤嶺藤沢高校の臨時コーチを務めることを知った矢澤は、同校に進学し、憧れの人に再会。「気持ちの入ったボールは普通のボールより、強さだったり思いがある」と言うように、この一文字は、矢澤の投球スタイルにも大きな影響を与えている。
現役時代、闘志を前面に出し「投げる金剛力士像」の異名を持った石井さんならではの一文字。矢澤に刻まれたこのたった一文字が、どんな時も自身を奮い立たせ、二刀流をこなす強い気持ち、強靭な肉体を作り上げてきた。

「投手としてもドラフト1位、野手としてもドラフト1位で評価してもらえるような、そんな選手になっていきたいと思っています」

矢澤と同じ左腕で通算224勝、監督としてもソフトバンクを5度の日本一に導いた工藤公康さんは「足が速いのが魅力的。投げっぷりがいいですし、彼の中では「気」という言葉がピッチングにもバッティングにも表れているのかなと思う。投手でも打者でも気持ちの部分が大きいんですよ。当然ピッチャーだったら打たれる時もあるし、へこむ時もあるんですけど、そういう時にどう次に行動出来るかはすごく大事なので「気」という文字を大事にしている子だったら、負けん気、やる気、元気とか「気」に関係する言葉はすごく大事にしていると思うので、プロ向きかなと思います」と評価する。
4年前のドラフトでは、指名漏れを経験。4年間の大学生活で「気」の文字と共に、正真正銘、投打でドラフト1位を狙える選手に成長した矢澤宏太。その運命と成長曲線から目が離せない。

■矢澤宏太プロフィール
2000年8月2日生まれ 173cm、72キロ 左投左打 東京都町田市出身
幼稚園年長から町田リトルで野球を始め、中学時代は町田シニアに所属。高校は神奈川県の藤嶺藤沢に進学。最速148キロ、高校通算32本塁打を記録するも甲子園出場なし。その後、日本体育大学に進学。1年春からリーグ戦に出場し、2年秋(外野手)・3年秋(投手)・4年春(指名打者)の3度リーグベストナインを獲得。4年時には、大学日本代表に選出。最速152キロ。今月、日本ハムが1位指名を公表。