福島県内で長く愛されている老舗の今を伝える『老舗物語』。今回は、西郷村で90年以上続く電気工事を生業とする企業です。事業を継承し続けるため、時代に合わせた社内改革にチャレンジする3代目に注目しました。
日常生活で欠かすことのできないインフラのひとつが『電気』。その電気を通じて、長年地域を支えてきた会社が西郷村にあります。創業92年目の『東陽電気工事株式会社』。照明設備の設置工事や通信工事など、幅広い実績で地域の暮らしに光を灯しています。
--石川格子さん(3代目)「携わった仕事が物として見える形で残るっていうのが、すごくやりがいを感じるところでもあります。」
そう語るのは12年前、3代目として事業を継承した石川格子さん。
--石川格子さん(3代目)「3姉妹の三女、全然父親とかの仕事に関係ないところにいたんですけど、会社を継承する人がいないという話を聞く機会があって。辞めるぐらいだったらチャレンジさせてもらいたいということで、私の方で手を挙げて帰ってきました。」
会社をたたむくらいなら挑戦したい。格子さんが手を挙げたのは26歳のときでした。
--番組スタッフ「電気関連の勉強とかはしていたんですか?」
--石川格子さん(3代目)「全くしてこなかったです。前職も塾の講師だったので、業界は畑違いでした。受け入れてくれない方が大きかったと思います。娘っていう特殊な立ち位置、しかも女性だということで、どこまでチャレンジできるのかというのも、自分との戦いでした。」
周囲に受け入れてもらうためにはと入社後、猛勉強で電気工事士の資格を取得。話を聞いてもらえる体制ができたところで、まず取り組んだのが就業規則などを見直す“社内改革”です。創業当初から変わっていなかった内容を、今の時代に合わせた新しいものに一新しました。
--石川格子さん(3代目)「色々なものが発達して進化していく中で、そこに追いついていくには改革していかないと会社が廃れてしまうだろうなと思っていたので。いいものは残しつつ、チャレンジして失敗して。成功したものは続けるという改革を、どんどん推し進めていきました。」
時代に合わせた改革に挑戦する中で、最も大切にしていること。それは“人材の育成”です。
--石川格子さん(3代目)「会社は人で成り立ってるので、人の育成っていうのを創業者から大事にしてきたものなので、そこは継承しているつもりではあります。」
そんな社風を受け継ぐ中で、ある施設を誕生させました。
--石川格子さん(3代目)「ここは安心して“失敗できる環境”というコンセプトで、実地研修ができる2階建ての施設になっています。」
会社の敷地内に研修専用の施設を設立。実際の工事現場と同等のものを使って実地研修ができるよう、人材教育の環境を整えました。この施設に込められた思い、それが業界全体の課題解消です。
--石川格子さん(3代目)「“(人材が)長続きしない”という課題に直面していたんですけれども、現場で教えて、技術を習得させてあげる時間がないということで。時間を確保しつつ現場では失敗できないところを、どんどん失敗してもらって、失敗から学べる環境を作りたいという社員の声もあり実現しています。」
見て覚えるという昔ながらのやり方ではなく、現場と区別された学習環境でじっくりと技術を学べるように進化。研修棟は業界で話題を呼び、全国各地の同業者にも利用されるようになりました。
--田邊健人さん(入社1年目)「思う存分練習して、実戦で役立てるかなと思って。楽しく仕事ができる会社だと思います。」
研修棟の効果は離職防止だけではありません。就職前の学生に本格的な研修を体験してもらうことで、幅広い採用にも繋がるようになりました。さらに、格子さんの社内改革はこんなところにもこだわっています。
--石川格子さん(3代目)「これ名刺です。社員全員の名刺になります。若い子からしてみれば、やはり自分の名刺を入社してすぐもらえるっていうのは、やりがいに繋がるようで。そういったところも大事にしながら渡したときに、インパクトのある名刺を目指してやってます。」
センスが光る名刺の中には、若きエースのものも。
--石川格子さん(3代目)「うちの娘です。娘の禾奈子です。」
格子さんの娘、禾奈子ちゃん。一般的に高校生レベルの知識が必要とされる電気工事士の資格試験になんと小学3年生で合格。
--石川格子さん(3代目)「母親の面子がないですよね。自分は、父親がどういう仕事してるのかとかっていうのは、大人になってから知るようになったんですけれども。そこから家業を継ぐっていうのはなかなか大変だなと思ったので。彼女の判断にはなりますけれども、自然な形でそういった選択もできるようになるといいなと思って。」
社長になって12年。先代からの伝統を大事にしながら、時代に合わせた改革に取り組んできた格子さん。
--石川格子さん(3代目)「まずは永続企業として、承継の部分を目指していきたいですし、AIに変われないというふうに言われている業種のひとつでもあるので、この業界を盛り上げていけるような、そういった取り組みをこれからもしていきたいと思っています。」
格子さんが率いる会社には安心して失敗できる環境のもと、西郷村のこれからを支える若き職人の可能性であふれています。