曲がり角にあるテレビの選挙報道。これを時代に合わせてアップデートするには何が必要かを考えるシリーズの3回目。当事者であるテレビ各局はどう考えているかアンケートを実施したところ、大半の局が「見直すべく検討中」であることを明らかにした。
NHKと民放キー局の計6局にアンケート
昨年は、東京都知事選、衆議院総選挙、兵庫県知事選を通じ、選挙期間中のSNSの影響力に注目が集まったが、既存のメディア、特にテレビの選挙報道に対しては、“物足りなさ”を指摘する声が多く聞かれた。
こうした状況を受け、NHKの稲葉延雄会長は、昨年11月の定例会見で「公共放送として果たすべき選挙報道のあり方について、選挙期間中にはいろいろな制約がありますが、その中で視聴者に投票のために役立つ情報をどうやったらより適切に提供できるかということを真剣に検討していく必要があると思っています」と述べている。
また、民放連の遠藤龍之介会長(2月に辞意を表明)も、昨年11月の定例会見で「周辺環境が変わる中で、これまでどおりの選挙報道でよいのかといった観点で議論していく可能性はあると思う」と述べて、テレビ局側の選挙報道の見直しの可能性に言及した。
こうした見直しの機運の高まりを受け、「調査情報デジタル」も今回のシリーズで有識者に具体的な提言を寄せてもらっているが、今回は、当事者であるテレビ各局が実際に今の状況をどう受け止め、どういった行動をしているのかを探るべくアンケートを実施したので、その結果をお伝えする。
アンケートの対象は、NHKと民放各系列の在京キー局である、日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビ(チャンネル番号順)の計6局。2月中旬にそれぞれの報道局長あてにアンケートへの協力を依頼し、全6局から回答をいただいた。
質問は3つで、1)選挙報道をめぐる現状認識と検討状況、2)検討の方法やスケジュール、3)見直しにあたっての具体的な論点とした。
アンケートへの回答者は、テレビ各局の判断に委ねたところ、回答者名は、それぞれ以下だった。
NHK:日本放送協会
日本テレビ:報道局 中村光宏次長
テレビ朝日:報道局
TBSテレビ:報道局政治部 岩田夏弥部長
テレビ東京:報道局 小松澤恭子局長・執行役員
フジテレビ:報道局取材センター政治部長
では、それぞれの質問に対する各局の回答を見てゆこう。
“選挙報道見直し中“を大半の局が認める
まず、質問1の選挙報道をめぐる基本認識と検討状況についてだが、結論を先に言うと、大半の局が社会情勢の変化を受け、選挙報道を見直すべく「検討を進めている」と回答した。
NHKは、「メディアを取り巻く環境が大きく変化する中、NHKは公共放送として、視聴者・国民が『知りたい』と思うことに応えていく責務があると考えており、昨年来、民主主義の基盤となる選挙報道のあり方について検討を進めている」として、昨年から検討を続けていることを明らかにした。
日本テレビは、テレビの選挙報道は「3つの課題を抱えている」として、次のような具体的な問題点を指摘している。
1) これから国を担う若い世代の多くがテレビで選挙報道を見ていないこと
2) 投票日前に有権者の投票行動に資する十分な情報を発信できていないこと
3) 選挙期間中にSNS上で拡散する誤情報や真偽不明情報に対応できていないこと
そして、「こうした点について見直す必要があると考え、検討を進めています」としている。
TBSテレビは、「有権者が選挙で投票する際の判断材料を、より丁寧に伝えることが求められていると考えています。選挙報道をより良いものにするための検討を始めています」と回答した。
フジテレビは、「SNSやネット利用者の拡大により、有権者がこうした媒体を利用して選挙関連の情報収集を行うケースが飛躍的に増えている現状に鑑みて、『現在のテレビ選挙報道』の見直しは常に行っていかなければならないと考える」と回答。
そして、「昨今のSNSやネットでの情報や、そうした情報をもとにした社会現象などについても、地上波やオンライン原稿等の報道の中で幅広く取り上げるべく、すでに取り組みを始めている」としている。
テレビ朝日とテレビ東京は3つの質問に対して、それぞれ次のような一文による回答だった。
「選挙報道につきましては、その都度社会的情勢に鑑みながら、視聴者の知る権利に応じられるよう改善を図っております」(テレビ朝日)
「選挙報道のみならず、マスメディアの報道全般に関わる状況の変化を感じております」(テレビ東京)
検討は夏の参院選見据えるも一部の局はすでに結果を反映
アンケートでは次に、検討方法や検討の結果をいつの選挙から反映させるつもりかを尋ねた。
NHKは、「ことし夏の参議院選挙なども見据え、報道局が中心になって、各地域放送局など、さまざまな意見を踏まえて検討を進めている」としている。
日本テレビは、「検討は、報道局内で昨年の東京都知事選後から、選挙関連部署の所属長以上を中心に、課題ごとに議論しながらPDCAサイクル(注)で進めています。様々な場を利用して他部署や系列局とも共有し議論していますし、外部の方からも様々な機会に御意見を伺い、参考にさせていただいています」として、昨年の東京都知事選後に検討を開始したことを明らかにした。
さらに、検討結果の反映については、「昨年の衆院選から反映させています」として、質問(1)への回答で挙げた3つの課題に対応する形で、「動画配信コンテンツとして、衆院選の公示後から連日、各党の政策をめぐる議論や投票日当日には開票速報や今後の日本の課題などを生配信しました」と、地上波に限定せず「動画配信」を併用する姿勢を紹介。
また、「衆院選の公示前後あたりから投票日までの『選挙運動期間』に、地上波の基幹ニュース番組で、党首討論のほか、政策テーマごとの各党公約比較や注目選挙区情勢、BS討論番組では、各党の政策担当議員による討論などを展開しました」と見直しの成果を強調している。
(注)PDCAリサイクル…PLAN(計画)、DO(実施)、CHECK(評価)、 ACTION(改善)の4つの視点をプロセスの中に取り込むことで、プロセスを不断のサイクルとし、継続的な改善を推進するマネジメント手法のこと
TBSテレビは、「報道番組の制作を担っている編集長やデスクが中心となり、定期的にミーティングを行っています。テーマに応じて、報道局以外の部署や系列局の担当者も参加しています。また社外の識者にも、ご意見をうかがっています」と検討の仕方を具体的に説明している。
そして、「検討結果については、最終的には夏の参院選での反映を予定していますが、それより前の千葉県知事選、東京都議選などでも、反映させられる部分は反映させていきたいと考えています」として、夏の参院選を目標にしつつも、その前に実施される首都圏の各種選挙にも一部反映させる考えを示した。
フジテレビは、「SNS等で流される情報や動画が有権者の投票行動に与える影響は、無視できないものとなっていることから、国政選挙、地方選挙ともに、すでに報道機関としてできる『客観性』『公平性』等の原則に基づいたファクト・チェックや、報道の在り方などに関する検討は、社内の報道局、情報制作局、編成局など関係の局、関係の部署を横断して進めてきている」として、社内の関係各部署を横断する形で検討していることを明かしている。
さらに社内にとどまらず、「全国の系列局との間でも、頻繁に役員レベル、局長レベル、取材部門のデスクレベルなどで、全局が集まる協議の場で議論をしてきており」とし、また、「外部の専門家なども交えた協議の場についても、様々な機会に現状の選挙報道の問題点等について意見をうかがう場を設けて、関係部局、取材部門などとの議論を行い、改善に努めている」としている。
そして検討結果を反映するタイミングについては、「すでに、各地で行われている地方選挙の報道でこうした取り組みを反映させてきており、今夏行われる予定の東京都議会選挙、参議院選挙等の場でも、反映させていく考えである」と回答した。